Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2015年6月号掲載
「はやぶさ2」が届けるものとは?

60年前の1955年4月12日、糸川英夫博士によって日本初のロケット実験が行われた(本誌54ページに関連記事あり)。ご存じのように、糸川博士といえば小惑星探査機「はやぶさ」が到達した“小惑星イトカワ”の命名の由来になった人物である。そんな「はやぶさ」が世界初のサンプルリターンに成功してから4年経った2014年末、後継機となる「はやぶさ2」が打ち上げられた。現在、順調に飛行を続ける「はやぶさ2」は3月3日から巡航フェーズに移り、11〜12月に予定している地球スイングバイの準備に入った。また、4月10日にはプロジェクトマネージャが國中均氏から津田雄一氏に変わり、チームも新体制になった。ここであらためて「はやぶさ2」に関係する書籍を読みこんで、探査機やロケットなども含めた日本の宇宙開発の現状を知ろう。

「小惑星探査機『はやぶさ2』の挑戦」 は、技術者を応援する情報サイト「日経テクノロジーオンライン」に松浦晋也氏が昨年5月から連載した文章を再編集・加筆した書籍である。第1部の「プロジェクトの全体像と意義」では、初代「はやぶさ」から「はやぶさ2」へ発展した基本的な情報を掲載。そして第2部の「プ口ジェクト関係者が語るはやぶさ2」では、川口淳一郎教授、國中均教授、吉川真准教授、渡邊誠一郎教授(名古屋大学)、樋口清司副理事長といった関係者へ行ったインタビューをまとめている。当事者ならではの苦労や裏話が満載で、現場の状況がリアルに伝わってくる。同時に、彼らの言葉からそれぞれの人物の人柄まで伝わり、「宇宙開発の研究現場」を知りたい人や、「将来自分も宇宙開発に関わりたい」という学生にとってたいへん興味深い内容だ。

同じ著者による「はやぶさ2の真実」 では、宇宙探査の系譜をたどりながら「はやぶさ2」プロジェクトの全容と、日本の宇宙開発をとりまくきわめて厳しい現状を伝えている。実際に、あれほど「はやぶさ」に熱狂した日本だったが、2012年には「はやぶさ2」があわや計画中止かと思われたこともあった。航空宇宙関連の科学技術ジャーナリストとして多くの現場を取材してきた松浦氏は、「国家的意思を決めるのは政治だが、日本の政治には太陽系探査に対する確固たる意思は存在しない。その結果、探査への国家予算の支出は少なく、不安定になる。(略)地球生命にとって最先端の営みである太陽系探査を、日本は、そして私達日本人は今後どうしたいのか」と訴えかける。

東映の映画『はやぶさ 遥かなる帰還』の原作にもなった『小惑星探査機はやぶさの大冒険』の著者、山根一眞氏による続編が「小惑星探査機『はやぶさ2』の大挑戦」 。前作(事実関係の正確さを期して、続編の発行にあわせて加筆訂正が行われた)同様、中高生や文系読者にも読みやすいようにわかりやすく解説している。右ページ下の欄外から打ち上がったロケットがページをめくるごとに上昇し、やがて紙面上辺の右端に現れた「はやぶさ2」のイラストが徐々に左端に移動していく遊び心が楽しい。小惑星に着陸する最終ページまで、じっくりと読み進めよう。

次の「『はやぶさ』-2つのミッションを追って」 は、は、ここまで紹介した3冊とはちょっと毛色が異なり、「はやぶさ」と「はやぶさ2」の物語を映像作品にした上坂浩光監督の映画制作ドキュメントである。プラネタリウムなどで見た読者も多いであろう「HAYABUSA−BACK TO THE EARTH−」と、「はやぶさ2」プロジェクトの展望を描いた「HAYABUSA2 −RETURN TO THE UNIVERSE−」は、多くの館で上映を重ねている。作品を完成させるまでの苦労や、取材を通じて出会った人々との関係は、宇宙ファンだけでなく、映画ファンや映画制作に関心を寄せる人にとっても興味深いだろう。監督が言うように「人という種にとって、宇宙開発は必然」だと評者も思っている。今回「はやぶさ2」が私たちに届けてくれるのは、小惑星の調査結果とサンプル、そして、そこからやがて導かれるであろう太陽系の進化や生命の起源に迫る手がかりだ。しかし、私たちが受け取るのはそれだけでなく“宇宙に挑戦し続ける英知”や“プロジェクトを成功させる姿”、そして“わき起こる感動と勇気”だろう。これらはすべて、経済活動とは違うレベルで人間にとって欠かせない、今の日本人に必要なものであると信じている。