Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2015年7月号掲載
探査機・人工衛星・ロケットの進化

前回は「はやぶさ2」をテーマにした本を4冊掲載したが、今号は拡大して「はやぶさ2」を含むさまざまな探査機や人工衛星、それを打ち上げるロケットを扱った書籍を紹介しよう。

おりしも、本誌特集で紹介したように探査機「ニューホライズンズ」が人類として初めて冥王星に接近中で、最接近に向けて観測を始めている。そんな探査機の役割について、初心者でもわかる平易な言葉で解説したのが『惑星探査入門』 である。著者は、月探査計画「セレーネ計画」(かぐや)の立ち上げに従事した科学者で、「はやぶさ」帰還時にはブログを通して世界中に情報を発信し続けたことでも知られる。現在は、月や惑星の知識と探査計画を紹介するサイト「月探査情報ステーション」の編集長を務めている。本書では、まず「はやぶさ2」の探査目的を紹介してから、そもそも月・惑星探査機とはどのような仕組みなのか、そしてその探査機に携わる巨大プロジェクトの仕組みを解説。さらに、日本の月・惑星探査の歴史と将来、アメリカや各国の最新探査事情を紹介する。最後に、国家プロジェクトとしての探査計画について、著者の考えを述べている。前回紹介した書籍でも感じたことだが、「はやぶさ2」の関係者たちが探査計画について語るとき、「こんなにすごい技術を使い、こんなにすごい研究にチャレンジしている」と説明するだけでなく、どの著者もみな「この挑戦は科学者だけでは続けられない。国民一人一人が、関心を持ち、積極的に議論し、活動に参加して、はじめて推進できる」と訴えている。私たちは、科学者に開いてもらった窓から宇宙を眺めるだけでなく、自分たちで扉を開く努力を求められる時代になった。丸い地球の上で自国の国境を武力で誇示するために資金や技術を使うのではなく、同じ星に生きる地球人として互いに共存し、宇宙や生命の根本を探究するために人間の英知を使いたい。

次の2冊は、探査機に限らずさまざまな人工衛星について、その役割や仕組みを紹介するガイド本。1冊目の『人工衛星のしくみ事典』 は、気象観測・放送通信・資源探査・地球観測など私たちの生活に密着した実用衛星や、月・惑星・太陽・小惑星・彗星などを調べる探査機、さらに赤外線・電波・X線などを使って観測する天文衛星など、あらゆる人工衛星をわかりやすく紹介する事典である。この本を見ていると、地球の周りには多くの人工衛星が飛び交っていて、さまざまな役割を果たしていることをあらためて実感する。冒頭で「はやぶさ2」の注目ポイントや、プロジェクトエンジニアの津田雄一氏のインタビューが掲載され、“はやぶさファン”の関心にもしっかり応えてくれる。ところどころに挿入される「コラム」では、人工衛星にまつわるエピソードが紹介され、運用を終えた人工衛星やロケットなどの「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」についてもしっかり取り上げられている。

2冊目の『現代萌衛星図鑑 第2集』 は人工衛星を、擬人化した萌え系イラストで見せる図鑑。2009年に衝撃的な登場をした『現代萌衛星図鑑』の第二弾で、当時運用中だった「はやぶさ」と「かぐや」の結末物語も今作に収録された。人工衛星とは、多くの技術者の手によって生まれ、地球から離れた宇宙空間でけなげに任務を続けているわけで、その姿を想像するとまさにヒロイン像にピッタリ。萌えファンだけでなく、誰でも新しい視点で楽しめるだろう。

最後は、人工衛星や探査機の打ち上げに欠かせないロケットについて。『イプシロン、宇宙に飛びたつ』 は2013年9月に打ち上げられた純国産最新鋭固体燃料ロケット「イプシロン」の、開発技術とプロジェクトチームについて、リーダーの森田泰弘氏が綴った読みものだ。高性能でありながら低コストでロケットを完成させ、しかもモバイル管制という世界が驚くシステムで打ち上げを成功させた。この技術によりロケット打ち上げが日常的なものになり、飛行機のような身近な存在になるという。宇宙への敷居を下げる、そんな“未来”を打ち上げたチームの推進力は何だったのか。プロジェクト成功には、優れた科学者や技術者が必要だが、その彼らを支えたのは無条件で愛情や勇気を与えてくれた“人間たち”だった。多くの人々のエネルギーによって、彼らは困難にも 粘り強く立ち向かっていったことがわかる。日本には「はやぶさ」以外にも、魅力的な人たちによって、大きな成果を上げるチームがある。その姿が、私たちに勇気を与えてくれる。