Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2015年12月号掲載
晩秋の夜は、宇宙を読み解く

秋が深まるごとに夜も長くなり、天文ファンにとって嬉しい季節がやってきた。早い夕暮れから遅い夜明けまで、たっぷり星を見たり撮影したりする人が多いと思うが、ときには月の明るい晩や雨の日にじっくり本を読むのはいかがだろうか。

『星が「死ぬ」とはどういうことか』 は、超新星爆発など宇宙の突発天体を研究している、若き天文学者による解説本。タイトルの“星の死”のひとつの形が超新星爆発であり、つまり“超新星爆発とはどういうことか”を説いている。まずは超新星爆発という現象そのものについて実例を示しながら紹介し、次にそのメカニズムを詳しく説明する。わかっていることだけでなく、謎の部分も含みながら話は進む。そして最後は、まだ謎ばかりであることを提示するが、それも仕方のないこと。著者が「10年後の教科書にまったく違うことが書かれていてもお許しください」というほど、現在進行形の学問であり、その研究現場の醍醐味を味わってほしい。

『完全独習 現代の宇宙物理学』 は、宇宙の天体と現象を物理学で理解していく独習書。高校レベルの予備知識をもとに、数式をたどりながら噛みくだいて解説していく。といっても、現代の宇宙物理学はさまざまな物理過程が複雑に関与しているので、一筋縄で理解できるものはなく、行きつ戻りつしながらじっくり読み進める必要がありそうだ。前著にあたる『完全独習 現代の宇宙論』で、宇宙論の基礎を理解してから読むとよいだろう。

さて、2007年から2012年に日本天文学会創立100周年記念事業のひとつとして「シリーズ現代の天文学(全17巻+別巻)」が出版された。それに続く新しいシリーズとして、「新天文学ライブラリー」が発刊されている。今シリーズでは、最新の科学成果を紹介するだけでなく、未解決の問題や矛盾した状況に取り組む方法論も示されている。全10巻の予定で今夏、第1巻『太陽系外惑星』 と第2巻『銀河考古学』 が発売された。この冬には第3巻『ブラックホール天文学』の発売も予定されている。『太陽系外惑星』は、主に観測的天文学の立場から系外惑星の性質についてまとめたもので、論理的研究を含む広範囲な「太陽系外惑星科学」とは少し違う。しいていうなら「太陽系外天文学」と名付けることができるそうだ。1992年にようやく確認された太陽系外惑星は、その後1994年に約50個、2010年に約500個と増え、今では4500個以上の有力な候補が発見されている。なかでも、生命が生まれる可能性があるハビタブル惑星の観測は、アストロバイオロジー(宇宙生物学あるいは宇宙生命科学)にかかわるホットな分野である。太陽系に住むわれわれにとって、まさに“新世界”への星図だ。一方、『銀河考古学』は銀河形成史を研究するもので、100億年以上前に形成したと思われる古い星に着目して、その性質から銀河が形成された時期の物理状況や銀河進化史を導き出す学問。「銀河考古学」と呼ばれるようになったのは比較的最近のことで、観測技術の発展と天体形成理論の進展によって名付けられた。しかし、研究内容自体は以前から行われており、銀河の動力学と統計力学、銀河の星成形過程と歴史、恒星進化と超新星爆発にともなう銀河の化学進化など、多岐にわたる研究分野である。地球の古代史を知る手がかりが化石だとすると、古い銀河の歴史を知るための化石にあたるのは、金属量や化学組成、空間運動の特徴だという。これらは、銀河にとってDNAのようなもので、それを分析することでルーツがわかるそうだ。計画中の大規模観測プロジェクトも興味深い。

ここまで深い内容の教科書ばかり扱ってきたので、最後の2冊はもう少し気軽にページをめくれるものを紹介しよう。『宇宙の果てに何がある?』 は、「宇宙の成り立ち」や「太陽系のなぞ」「天体の秘密」「宇宙の神秘」「宇宙開発の過去と未来」というテーマに沿って、100本の話題を掲載する雑学本。携帯しやすい文庫サイズだから、手軽に持ち歩いて、待ち時間などの細切れ時間を有効利用して読むのもいいかも。

『考える人』 は、「シンプルな暮らしと自分の頭で考える力を問う」季刊雑誌。10月に発売された秋号の特集が、「宇宙空のかなたに何がある?」だ。村山斉氏と向井万起男氏の対談や、細野晴臣氏のエッセイ「音楽は『地球の空気』」など、“読む宇宙”もなかなか面白い。あなたもこの雑誌を読んで、星空を見ながら“考える人”になってみてはいかが。