「私たちの宇宙は、どうやってできたのか?」天文学者でなくても誰もが、子どものころから一度は考える疑問だろう。『宇宙の誕生と終焉』は宇宙全体の姿を時間軸に沿って教えてくれる解説本。初心者にとってイメージしにくい宇宙論の世界を想像しやすいように、多くの模式図やカラーイラストを用い視覚化していてわかりやすい。さらに、少しずつ理解できるよう細かく分けて見出しを立てているので、宇宙の成り立ちに興味を持つ人なら中高生から読み進められるだろう。もちろん、宇宙の誕生と終焉はすべて解決したわけではなく、観測や実験によって徐々に明らかになっている途中である。著者は「科学的に確実になっている事柄と、科学的にまだ確立していない仮説とを混同しないように」説明していて、「今後の研究の進展によって後者は大きく書き換えられる余地」があると述べている。そんな仮説に挑戦するような気持ちで読むのも面白い。「宇宙を想像することは、常識を超えた思考をすることでもある」という。同書を読むことで新しい視点を持ち、読者の世界観が広がることが、この本のもうひとつのテーマだ。
同じようなタイトルだが『宇宙の始まり、そして終わり』は、観測的宇宙論の科学者である小松英一郎氏と、人気小説家でネイチャーライターでもある川端裕人氏がコラボした、ユニークなノンフィクション。マックス・プランク宇宙物理研究所所長の小松氏の研究現場を川端氏がリポートする文章は、読者に向かって熱く語りかけてきて、まるで科学ドキュメンタリー番組を見ているようにワクワクする。それはたぶん、川端氏自身が宇宙論の最先端についてワクワクしながら取材したからだろう。第1章では宇宙の始まりとインフレーションについて、第2章でウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機(WMAP)チームの現場と成果について、第3章で暗黒エネルギーと宇宙の終わりについて扱っている。読み終えたとき宇宙について深く考えるとともに、2人の著者による濃密なサイエンスカフェをたっぷり聴講したような気持ちになった。
『輪廻する宇宙』のタイトルである“輪廻”とは、辞書によると「車輪が回転してきわまりないように、衆生が三界六道に迷いの生死を重ねてとどまることのないこと」とある。つまり、生まれ変わり続けることなのだ。宇宙が生まれ変わるとすると、そこに関わるのはダークエネルギーだという。ほんの一部を書き出すと「ごく小さなダークエネルギーを持った非常に大きな宇宙が、初期宇宙のインフレーション時代に経験したような、大きな位置エネルギーを持った小さな宇宙に量子的な転移を起こすことができる」という。「そして、大きなエネルギー密度を持った小さな宇宙は、初期宇宙と同じようなインフレーションを再び起こし、わたしたちの宇宙が経験してきたような進化をもう一度繰り返すことになる」と著者は述べる。この文章をしっかり理解したい人は、第1章からじっくり読んでほしい。「一つ一つの宇宙にはじまりと終わりがあっても、全ての宇宙の進化をあわせて捉えると、大宇宙全体にははじまりも終わりもなく、その中で一つ一つの宇宙が生成消滅を繰り返している」という。SF小説に登場するパラレルワールドなどではなく、現代物理学で語られる理論はとても興味深く難しく、そして魅力的だ。
次は、宇宙の始まりに特化した『宇宙背景放射』を紹介しよう。宇宙背景放射とは、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)ともいい、宇宙の全方向からやってくる電磁波で、ビッグバン宇宙論の有力な証拠とされる。著者が恋に落ちたという「宇宙最古の光」=CMBについてわかりやすく解説し、彼らが狙っているBモード偏光の観測現場をリアルに伝えている。著者は、ビッグバン宇宙論を支える物理の基礎法則を「宇宙のルールブック」と表現している。そのルールは素粒子物理で扱う3種類の力と、一般相対性理論が扱う重力、それぞれハガキ1枚で合計4枚に書くことができるという。例えば、天動説という誤った認識では天体の動きは複雑で不自然になるが、地動説という新ルールに従えばとてもシンプルな運動になる。このシンプルな美しさが「宇宙のルールブック」で、もしも正解にたどり着ければ全てはハガキ1枚に書き込めるという。私たちはまだ、“宇宙論のコペルニクス的転回”の途中なのだ。
ここまで新書を4冊紹介したが、『14歳からの宇宙論』は同じ内容を読みやすくした「14歳の世渡り術」シリーズの単行本。お勉強と思わず、今まで開けたことのない箱を開くような気持ちで読んでみよう。子どもへ贈るのに良い本だが、大人も自分用に買って読んでみてはいかが。
最後は、新天文学ライブラリー第3弾の『ブラックホール天文学』。先日検出された重力波は、ブラックホールの衝突合体で生じたものである。“古くて新しい学問”といわれるブラックホールの最新版教科書。
(紹介:原智子)