Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2017年4月号掲載
さまざまな大きさと重さで知る宇宙

近頃は電子書籍の利用が多くなった。コンパクトな端末さえあれば、いつでもどこでも読むことができて便利なうえに、必要な部分を検索してピンポイントに情報を得ることもできる。しかし、実際の書籍には「本」として総合的な存在感がある。本の重みやページをめくる動作など、本と一体になっている感覚だ。それは書籍ごとに異なり、「本の個性」ともいえる。サイズの大きなもの小さなもの、表紙の硬いもの軟らかいもの、紙のコシの強いもの弱いもの。これまでさまざまな書籍を紹介してきたので、本を手に取ると開く前に「どんな内容か(図鑑か読み物か資料か)、ターゲットは誰か(天文初心者か愛好家か専門家か)」などを想像することが多い。今回は、比較的大型の書籍を集めてみた。

『宇宙のつくり方』 は表紙が厚く硬いので「図鑑かな」と思いながら開いたが、実際はやや大きめの文字の並んだ読み物だった。著者はイギリスのメトロ・ニュース紙で科学欄を担当してきたサイエンスライター兼イラストレーター。そのためだろうか、各章の見出しページが大きなデザイン文字(表紙タイトルと同デザイン)とイラストで飾られている。内容はタイトル通り「宇宙のつくり方」つまり、ビッグバンから宇宙の終わりまでの手順を紹介するガイドブックだ。宇宙が“生まれた”という考えがどのように生まれたのか、時間と空間の原理を含めて解説している。

『COSMOS』 は『宇宙のつくり方』と同じサイズだが、表紙が軟らかくてめくりやすい。副題に「インフォグラフィックスでみる宇宙」とあるように、尺度や概念を視覚的に表現する手法を使って、宇宙の時空間的な広がりや現象の頻度などをわかりやすく表現している。天体写真集や天文図鑑とは違った方法で、目に見えない宇宙を目に見えるように表したユニークな一冊。

『自然がつくる不思議なパターン』 は見た目通りの図鑑だが、中から現れたのは想像していたものとはちょっと違うとても神秘的な写真だった。宇宙に限らず生物や結晶などさまざまな自然に迫り、そこに秘められた規則性や造形美を、数学的・科学的に探究したビジュアル図鑑だ。「対称性」「フラクタル」「らせん」「流れとカオス」「波と砂丘」「泡」「配列と平面充填」「亀裂」「斑点と縞」をテーマに、美しくも不思議な世界を教えてくれる。宇宙という典型的なマクロを細胞などのミクロで考察したり、混沌とした自然に含まれる秩序を見いだしたり、ページをめくるたびに驚かされた。

同じように、写真をふんだんに載せているのが『月の素顔』 。こちらは表紙がしなやかで厚くない本なので、めくりやすくて持ちやすい。といっても、単なる写真集ではない。月食や日食、月と惑星の接近や食など、さまざまな表情を美しく切り取っている。さらに、詳細な月面図や月齢ごとの見どころを紹介。後半は、NASAの月周回無人探査機ルナー・リコネサンス・オービターが撮影した月面写真を掲載していて、クレーターの複雑なシワや、巨大な壁や深い谷など、文字通り“月に迫る”視点を味わえる。月に残されたアポロの着陸船や足跡(月面車や徒歩で移動した消えない線)を見て、人類の野望と月への憧れをあらためて感じた。

『双眼鏡の歴史』 は本の厚さ以上に、類を見ない内容と情報の充実に驚嘆した。プリズム双眼鏡の世界初市販機や国産1号機という貴重な機材をはじめ、光学産業史や製造業史で特筆すべき双眼鏡100台以上について実機と分解写真で紹介している。双眼鏡黎明期からの歴史がこの一冊に凝縮されている。

最後は、絵本のような装丁の『世界初の宇宙ヨット「イカロス」』 。ヨットのように宇宙を進む太陽系惑星探査実証機の開発と活躍を、わかりやすく描いたノンフィクション。「イカロス」を擬人化して、小学生にも親しみやすく紹介している。

「本」は、探している内容にたどり着くまで手間がかかるが、意外な発見もある。さらに通販でなく書店で本を選べば、もっと思いがけない出会いがあるかもしれない。

(紹介:原智子)