NHK大河ドラマ『西郷どん』が放送されている今年、“西郷星”が地球に接近中だ。この原稿を書いている6月中旬は梅雨らしい気候が続き、ときどきしか火星を見ることができない。大接近する7月末には、木星よりも明るく赤く輝く西郷星をたっぷり拝みたいものだ。それまで、しっかり本で予習をしておこう。
『火星の素顔』は、火星探査機がとらえた最新の画像を大判の紙面に大迫力で収めたビジュアルブック。衝突クレーターや噴火口の丸いくぼみ、ラビリントス(迷宮)と呼ばれる複雑な地形、直線的に引き裂かれていく地溝帯など、火星面のさまざまな姿を鮮やかに切り取っている。さらには、なんと人類初の火星探査機マーズ3号のパラシュートや、バイキング2号の着陸船といった、人類が残した爪痕まで写っている。どの画像が火星面でどこにあたるのか詳細なチャートで示しているので、たとえ家庭用望遠鏡で実際に観測することが難しくても想像するだけでワクワクするだろう。もちろん、私たち天文ファンが自分の望遠鏡で観測するときのガイドもしっかり載っている。黒い大シルチスや白い極冠、特徴的な形のサバ人の湾など、チャートを参考にしてどんどん観測しよう。
そんな火星に「行く」だけでなく、「住んで生きる」ことができるのかを“語った”のが『火星で生きる』。この本は、インターネットやテレビなどで人気のプレゼンテーション「TED(テド)」のトーク内容を発展させたTEDブックスの日本語訳。スピーカー(著者)のスティーブン・ペトラネックは、世界最大の科学雑誌『Discover』の編集長も務めたジャーナリスト。その彼が、火星へ向かい火星で暮らすための可能性について、環境や経済なども含めて真面目に提案している。TEDブックスのもとになったTEDトークはウェブサイト(www.TED.com、日本語字幕あり)で視聴できる。トークの終点が本の起点であり、17分間で語り尽くせなかったことが、ブックスに詰まっている。
ほかにも複数の火星関連本が発行される。データを掲載するので、参考にしてほしい。特に『わかる!楽しむ!火星大接近&はやぶさ2』では、『天文ガイド』『星ナビ』『子供の科学』『Newton』が誌上コラボしているので注目を。
さて、冒頭で火星のことを「西郷星」と書いたが、ほかにも星の別名は日本各地にある。そんな星名の方言900種あまりを紹介するのが『日本の星名事典』。星の伝承研究室を主宰する著者が40年にわたって丁寧に調査・採集した成果と、野尻抱影氏をはじめ全国の和名研究家が収集した内容を包括的に収録した集大成だ。世界にも星と生活の結びつきを示す言葉はあるが、この小さな国土にこれほど多彩な和名が存在することに驚く。日本の変化に富んだ地形と四季折々の気候によってもたらされる独自の生活によって、星の名前も自分たちの暮らしに役立つように呼び分けていったのだろう。星くずのような細かな言葉をひとつひとつ丁寧に聞き取り記録した同書は、後世に残すべき大切な民俗書である。
最後に、火星や星座を観察するときに役立つ『星と星座 パーフェクトガイド』を紹介しておく。シンプルでわかりやすい解説と星図が載っているので、「火星を見るために望遠鏡を買った」という天文初心者は、このガイドブックで観測にチャレンジしよう。
(紹介:原智子)