通販サイト社長が月周回旅行を予約したという記者発表や、ドラマ「下町ロケット」の新シリーズ開始など、宇宙へ行くことへの関心がニュースを騒がせている。それと同時に、有人宇宙船「ソユーズ」の打ち上げ失敗や、「はやぶさ2」の小惑星リュウグウ着陸の延期などが報道されて、宇宙開発の厳しさも伝わってくる。
『もしも宇宙に行くのなら』は、宇宙進出を本気で考えることを通じて未来への想像力を取り戻す「人間の未来のための思考実験」本。著者は生命科学・医学の研究者で、臨床応用を中心にした科学政策論の専門家でもある。人類が宇宙に行くことでどんな問題に直面するのか考えることは、生命科学や医学だけでなく、ジェンダー・人工知能・ロボット、軍備の是非をめぐる国際法と外交論、異民族との対立と寛容、環境問題など、地上の課題にも関わるという。多くのSF作品をヒントにしながら、楽しく真剣に話を進める。
では現実的にみて、現在宇宙開発はどんな状況でこれからどうなるのか、それを教えてくれるのが『宇宙はどこまで行けるか』だ。「はやぶさ」のイオンエンジン運用および帰還時のカプセル回収に従事した著者が、「大人の科学バー(キウイラボ主催)」で行った講演をまとめた本だ。「基礎的な知識」「現状の技術と課題」「未来の技術」を柱に、専門知識がなくても読めるよう丁寧に解説していく。著者いわく「華々しいロケット打上げの瞬間や、はるか彼方の探査機から送られる神秘的な画像を好きなだけ観られる時代になった今だからこそ、地球を飛び出し宇宙を駆けることの何が難しくて、どんな工夫をしているのかを知ると、面白さが倍増するはず」。
そんな飛行技術を駆使して、宇宙を旅するための手引き書が、ずばり『宇宙旅行入門』だ。オペラが音楽・演劇・文学・美術・衣装などの要素からなる総合芸術だとすると、宇宙旅行も飛行技術以外に観光、経済、マーケティング、医学、法律など、多方面の要素が調和して初めて可能になるという。同書は世界初の試みとして、これらの諸分野を網羅して分析する。第1章と第2章で「宇宙旅行とは何か」「これまでと、これからの宇宙旅行」について、定義ではなく小説と事実で説明。3章以降で、技術と安全性、多様なツーリズム、需要、マーケティング、経済効果、法整備の現状と展望、宇宙旅行服、宇宙酔いや精神負担について、各分野の専門家が具体的に検討する。そして終章で「宇宙旅行を日本で実現するための課題と克服」と題し、各章の結論を代弁する形でまとめている。この本でも、前述した『もしも宇宙に行くのなら』でも、飛行機が1903年に発明されてから16年後に定期航空路が開設されたことに比べると、宇宙旅行の歩みは遅いと述べている。「自分が旅行したい」と希望する人も、「商売になるだろうか」と検討する人も、まずはこの本で熟考してはいかが。
宇宙開発のなかで日本が世界に認められているもののひとつが、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」ではないだろうか。ISS最大の実験棟は、広くてきれいで静かで窓から宇宙が見られるとして、他国の宇宙飛行士にも人気だと聞いたことがある。そんな「きぼう」の計画から運用までを語ったのが『「きぼう」のつくりかた』である。著者は元JAXA理事で、「きぼう」プロジェクト・マネジャーも務めた。日本の有人宇宙開発黎明期から、米ソの開発競争を追いかけ翻弄させられ認められていく過程を、当事者としてリアルにつづっている。「きぼう」がいかに作られたかというハード面だけでなく、プロジェクト・マネジャーとしていかに人材を育てて組織をつくるかというソフト面も大事な要素である。巨大国際共同プロジェクトに携わった人物の証言として、ビジネスやエンジニアリングのヒントも詰まっている。「きぼう」とともにISS補給機「こうのとり」もその高い技術により、国際貢献において大きな役割を果たしている。
一方、アメリカで太陽系惑星探査の黎明期を担った女性たちの話が『ロケットガールの誕生』。女性計算手の実録というと、1年ほど前に当コーナーでも紹介した『ドリーム』がある(映画化もされた)。あちらはNASAラングレー研究所で活躍した黒人女性たちが主人公だったが、こちらは、主にジェット推進研究所(JPL)が舞台。どちらも、重要な役割を果たした女性たちの輝かしい功績を伝える。
(紹介:原智子)