Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2019年1月号掲載
宇宙の果てまでの道案内

知らない場所を訪ねるとき、誰でも地図が欲しくなる。しかし地図がないとき、あるいは地図が作られていない未知の場所を歩むとき、道案内がいてくれたら心強い。宇宙とはまさに、誰かが記した地図(宇宙観や宇宙図)を頼りにしながら、その先を目指して切り開く無限の場所(時空)だ。今回は、そんな未知の宇宙を案内してくれる案内人の書籍やガイドブックを集めてみた(もちろん、本誌も有力な“星”への“ナビ”ゲーターである)。

『ホーキング博士 人類と宇宙の未来地図』 は、「車いすのニュートン」と呼ばれたスティーブン・ホーキング博士の言葉をたどりながら彼の人生と、研究テーマである「宇宙の始まり」と「ブラックホール」について紹介する読み物。ホーキング博士の多彩な発言は、これまでも多くの場面で取り上げられてきた。それは、大胆な学説内容だけでなく、発言に込められた情熱とユーモア、ときには愛情を感じるからだろう。そんな魅力的な言葉を(合成音声で)発するようになったのは、彼の波乱万丈の人生が大いに影響している。21歳で筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した彼は「私の期待は21歳の時にゼロまで落とされた。それ以来、すべてが私にとってボーナスなんだ」ととらえ、意欲的に研究に励んだ。私生活では、2度の結婚と離婚をし「(一日のうち何について一番考えているかと聞かれて)女性だ。全くの『謎』だから」と答えている。ホーキング博士の理論がわかりやすく(著者いわく「ときに大胆に」)紹介されているが、それでもうまく理解できないと思ったとき「一枚の地図で地球の表面全体を表すことができないように、あらゆる状況における観測結果を説明する唯一の理論というものは存在しないのである」と言われて合点がいった。

そんな難解な宇宙の大規模構造について、丁寧に教えてくれるのが『図解 宇宙のかたち』 だ。「銀河」が集まった「銀河群」、それが集まった「銀河団」、それが集まった「超銀河団」と階層的な構造をしている「宇宙の大規模構造」について、視覚的にもわかりやすいよう多くの図版を用いて解説している。一般向けであるが、知的好奇心が刺激され、さらに専門的に学びたいと思わせる。

好奇心を持つのは、大人だけではない。むしろ子供の方が「この世界はどうなってるの?」と素直な疑問を持つ。『天文学者に素朴な疑問をぶつけたら宇宙科学の最先端までわかったはなし』 は、タイトル通り素朴な30の疑問に答えるスタイルで宇宙について掘り下げていく初心者向け解説書。話し言葉でつづられているので読みやすく、中高生でも手に取りやすいが、内容は本格的で大人の入門編としてもおすすめ。

ところで、外国旅行をすると逆に日本について考えることがある。同じように、宇宙の果てを見ようとしていると、「そんな宇宙にある地球」や「そんな宇宙で生きている人類」について思いをはせたくなる。『情けは宇宙のためならず』 は、物理学者が研究や日常生活の中で感じた出来事をサイエンス的に切り取ったエッセイ。ときには科学を日常的な言葉で語り、ときには日常を科学的に語っている。世界(宇宙・日常)の見方に新たな刺激を与えてくれる一冊だ。本文と同じくらい熱量を感じる脚注も必読。

最後に、物理や化学の基本である原子の最新情報を解説する[改訂版]『周期表に強くなる!』 を掲載しておく。周知のように、周期表とは元素を原子番号順に並べたもので、元素の構造や特性を反映している。理科教科書の見開きに並んだアルファベットの羅列が、縦横に類似した性質の順番であることを知ったとき、魔法の呪文を教わったような気持ちになった人もいるのでは(文系の人には謎の呪文だったかもしれない)。改訂版には、2016年に「ニホニウム」の正式名が決定した原子番号113「Nh」(旧仮称ウンウントリウム「Uut」)も、もちろん登場する。この機会にあらためて周期表を読み解くとおもしろい。

(紹介:原智子)