あなたが天文に興味を持ったきっかけは何だったか。子どものころ贈られた星座の絵本、探査機ボイジャーが撮影した天体写真、友人に誘われて入った天文部。どんなきっかけでも「もっと天文について知りたい」とか「いろいろな天体を観察したい」「宇宙について深く学びたい」など関心が広がったのなら、きっとその出会いはあなたにとって素晴らしい瞬間だったのだ。今回は、様々なアプローチから天文に迫る書籍を集めた。今のあなたにとって気になる一冊があれば、ぜひ読んでみてほしい。
『宇宙のすがたを科学する』は、古代から現在までの宇宙観や最新宇宙理論について、イラストの一部をめくって学べるようにしたフラップ式仕掛け絵本。たとえば、古代ギリシアの自然哲学者が考えた「帽子のような宇宙」を実際に帽子の絵をめくって表現するなど、ユニークな工夫があり飽きさせない仕組みだ。イラストも手掛けた著者のギヨーム・デュプラ氏は、姉妹書の『地球のかたちを哲学する』でボローニャ国際児童図書賞とイタリア・アンデルセン賞を受賞している。両絵本とも好奇心をくすぐられる仕掛けがいっぱいで、親子で読むととても楽しい。さらに今回は、大人でもイメージしにくいコズミックウェブや多元宇宙の表現にも挑戦していて、それらの仕掛け絵を開くのはかなりワクワクする。固定観念に染まってしまった大人にこそめくってほしい。
『夜の絶景写真 星空風景編』は、本誌でも美しい写真を発表している沼澤茂美さんによる撮影ガイド本。「星空風景編」というタイトルどおり、地上風景と星空が一つの作品として完成するように撮影方法をアドバイスしている。カメラやレンズなどの機材選びから、桜やホタルといった風景を引き立たせる画角などを具体的に説明する。天体撮影には不向きな月夜や人工物の電信柱ですら、彼の手にかかるとドラマチックなモチーフになる。星景写真の撮影を始めたい人にはきっと役に立つ一冊。
この季節、オーロラを見に行きたい人も多いはず。『オーロラの話をしましょう』は、長年にわたりオーロラ研究を牽引してきた赤祖父俊一さんが自身のたどった研究の道を語りながら、その歴史と成果を“記録した物語”。著者いわく、単なるオーロラ解説書ではない。明らかになった一つの研究成果も、多くの時間をかけて多くの研究者と共に解明してきたものであることが“話”から伝わる。もちろん、オーロラの最新研究もたっぷり掲載されている。それと当時に、オーロラにはまだまだ多くの謎があり、若い研究者たちにそれを追究してほしいという願いも伝わってくる。
次は、本誌連載でお馴染みのミマスさんが著した『歌を作ろう!』。実はこの書籍こそ、今回のテーマ「どんなアプローチから天文を楽しむか」という発想をもらった本だ。本誌愛読者ならご存知のように、著者は幼少から天文好きで、現在は音楽ユニット「アクアマリン」で活躍している。彼らの歌には星が多く登場し、そこに宇宙と人間への深い愛情を感じる。つまり、彼は歌で宇宙を表現し、天文世界を広めているのだ。「誰でも歌が作れてその方法は難しくない」ことを伝授するこの本が、同時に「誰でも楽しく天文に親しめる」と語っているように感じた。
ミマスさんはこれまで音楽の才能を磨き、運命を切り拓いて現在の仕事をしていると思うが、「自分も好きな天文を仕事にしたい」と願う人がいるだろう。そんなとき参考になるのが『宇宙・天文で働く』。一言で宇宙や天文に関わる仕事といっても、実に様々な職業がある。まず思いつく天文研究者や宇宙開発技術者など以外に、宇宙を表現するイラストレーターや写真家、そして天文知識を伝える雑誌編集者やプラネタリウム解説員など。アストロアーツ社のスタッフも登場しているので、どんな仕事なのか関心のある人はご一読を。かくいう私も一端を担う者であり、その責任を果たせているだろうかとあらためて思った。
(紹介:原智子)