本誌記事でも取り上げたように、2019年4月「史上初のブラックホール直接撮影に成功」というニュースが世界を駆け巡った。快挙を成し遂げたプロジェクトメンバーの誇らしげな顔を見ていると、彼ら彼女ら自身が一番ブラックホールに引き寄せられているように感じた。ブラックホールでなくても、人間は満天の星を見て夜空に吸い込まれそうな気持ちになったり、その奥にある広大な宇宙に思いを馳せたりする。そんな人間と宇宙の関わりを多角的に紹介する読み物が『ヒトはなぜ宇宙に魅かれるのか』。天文教育と科学コミュニケーションを専門とする著者が、人類共通の遺産や財産としての天文学や、宇宙開発の歴史と最新情報を紹介しながら、人と宇宙の関わりを提案していく。たとえば、コロンビアのギャング団リーダーがプラネタリウムを見て「俺たちは狭いテリトリー争いを繰り返してきたが間違っていた。地球全体が人間にとってのテリトリーなんだ」と武器を捨てて学校に通い始める。一人の人間の視点が変わって思考が変わるように、宇宙開発が進んで外から地球を見るのが当たり前の時代になれば、人類のパラダイムシフトが起きる。「天」からの「文」を解き明かそうする文化(天文は文化)が、人類の幸福的発展につながる……と感じたとき、この出版社の新書がいずれも「人生・コミュニケーション・ビジネス」をテーマにしていることに気づき、天文もこのキーワードに当てはまると納得した。
古代の日本人も、星空に特別なものを感じていたのだろう。『古代の星空を読み解く』は、キトラ古墳に描かれた天文図など古くからの天文記録を統計学的に解析研究する教科書。著者も参加した「キトラ古墳天文図の調査グループ」による天井星図の年代推定は、テレビでも放送されて興味深く見た記憶がある。同書は、学術的に深く掘り下げた学術書だが、古天文学に関心がある人なら文系読者でも面白く読める。キトラ古墳時代の星図は大陸の影響を強く受けており、中国やアジアの星図や星表にも研究は広がる。また、日本の中世や近世の星図解析にも触れる。いずれの地域や時代でも、星図にはその土地の科学的発展だけでなく天文民俗学も反映していて、「人類が宇宙をどうとらえてきたか」を感じとれる。
古今東西、天文と深く向き合う人々にスポットを当てたのが、絵本『天文学者』。小学校中学年以上を対象に、世界中の偉大な科学者を紹介するシリーズの一つで、アリストテレスからホーキングまで24人の天文学者を、イラストや写真を使いながらわかりやすく紹介している。学術成果と、それが後世(現代)にどんな影響を与えたかも載っていて、個々の伝記としてだけではなく、古代から現代の天文学者たちによる研究の積み重ねが見えてくる天文歴史書。
児童向きには「MANGA謎解きハンターQ」シリーズ第3弾『「第二の地球」を発見せよ!』もある。地球以外で居住できる場所を探すために3人の少年少女がロケットに乗り込み、月・火星・エウロパへ向かうストーリー。各天体の情報を収集したがブラックホールに吸い込まれそうになり、やがて「第二の地球」にたどり着く。それがどんな星なのか、楽しく読んで学ぼう。
残念ながら現実では、人類はまだ制限なく自由に宇宙を行き交ったり、地球外生命体と交信することはできない。しかし、古くから月や火星を舞台にしたSFはあり、むしろ人間の想像力は宇宙に対してこそ存分に広がるのかもしれない。『火星の遺跡』は、『星を継ぐもの』で知られるジェイムズ・P・ホーガンの最新小説。火星の都市で実験中のテレポーテーション技術と、太陽系各星に残る1万2000年前の巨石遺跡の謎に迫る物語。SF評論家は同書を「神学的な世界観の上に構築されたハードSFの一つと解釈することが正しい理解となるのでは」と紹介している。謎の塊ともいえる宇宙に、さらにミステリーを重ねて知的好奇心をふくらませずにはいられないほど、人類は宇宙に引き寄せられている。
(紹介:原智子)