Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2019年9月号掲載
ロケットと宇宙ビジネス

アポロ11号による人類月面着陸50年のこの夏、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウへの2回目の着陸に成功した。「月の石」を地球に持って帰り世界中が沸いた時代から、「太陽系の歴史のかけら」を持って帰る時代になったのだ。来冬には、長い旅から戻った優秀な“サンタクロース”が、小惑星の地下物質というプレゼントを地上に届けてくれるだろう。そんなアポロも「はやぶさ2」も、それらを宇宙へ送り出すロケットがなくては話にならない。今号では、ロケットと将来の宇宙ビジネスに関する本を紹介する。

『ロケットの科学』 は、2013年に出版された同タイトル本を大幅に加筆修正した改訂版。当時の副題は「日本が誇るH-IIAからソユーズ、アリアン、長征など世界のロケットを完全網羅」で、生産国別に分類して紹介する内容だった。今回は「創成期の仕組みから最新の民間技術まで、宇宙と人類の60年史」とあるように、民間企業の参入に多くの紙面を割いている(第5章)。本文は、世界の「戦中や戦後のロケット」(第1章)から、「日本の草創期」(第2章)や各国の「成熟期のロケット」(第3章)。そして、アメリカを代表するサターンやスペースシャトルという「時代をつくったロケット」(第4章)まで、歴代ロケット50種超を掲載。わかりやすいイラストやカラー写真を使いながら、コンパクトな新書に丁寧に収めている。

『トコトンやさしい宇宙ロケットの本』 も2002年の初版、2011年の第2版、そして今回(2019年)の第3版と、時代と共に改訂を重ねてきた書籍。ロケットの仕組みから、推進剤やエンジンなど構造の解説、そして最新の宇宙開発の歴史まで、わかりやすく紹介する「今日からモノ知りシリーズ」。一つのテーマについて、文章1ページと図解1ページ、あわせて2ページの見開きで解説していくから読みやすい。ときおり挿入されるコラムも面白い。

次は、ちょっと趣向の変わった写真集をお届けしたい。『バイコヌール宇宙基地の廃墟』 は、1993年に中止された旧ソ連の有人ロケット計画「ブラン計画」の、宇宙船と大型ロケットがそのままの状態で放置されている廃墟の写真集。現在、国際宇宙ステーションとの往復をしている宇宙船ソユーズの打ち上げ場所のすぐ近くに、こんな歴史遺産が眠っていたとは。巨大な格納庫の中でホコリをかぶった白い宇宙船「ブラン2号機(ブーリャ)」と技術試験機「OK-MT」、そしてロケット「エネルギア-M」は、まゆの中で飛び立つ時を待ち続けるカイコのようで、美しくも切ない。

次の2冊はどちらも昨春に刊行されたもので、まさに“実践的な宇宙ビジネス”の到来を告げている。『宇宙ビジネスの衝撃』 は、宇宙ビジネスコンサルタントの著者が、この事業の大きなポテンシャルと将来性を解説する読み物。天文愛好家よりもビジネスマンの方が手に取るかもしれない。この事業が、宇宙旅行や移住計画など一部の人の話だけでなく、自動運転など私たち現代人の生活にも欠かせないものだと、あらためて知らされる。

『宇宙ビジネス第三の波』 も前書と同じくビジネスコンサルタントが著しているが、こちらは横書きのせいか読み物というよりテキストという印象がする。前書の読者には事業主やチームリーダーが多そうだが、こちらは宇宙ビジネス業界への就活を考える学生にも役立ちそうだ。ちなみに、第1の波とは「米ソの開発競争」、第2の波は「宇宙ステーションを軸とした国際協調」、そしてここまでをOld Spaceだとすると「新時代の宇宙開発であるNew Space」が第三の波なのだ。

ロケットによって扉が開かれた宇宙開発は、将来どんなビジネスシーンを生んでいくのだろう。

(紹介:原智子)