2020年のノーベル物理学賞が、ブラックホール研究の進展に貢献した三人の科学者に決定した。それぞれの詳しい功績は本誌2020年12月号の「News Watch」を読んでほしい。
また、2019年4月には、日本を含む国際協力プロジェクトチームが、大質量ブラックホールとその影の存在を初めて画像で直接証明することに成功した。そのとき日本の記者会見で発表を行った本間希樹氏が、ブラックホールについてわかりやすく紹介するのが『国立天文台教授が教える ブラックホールってすごいやつ』だ。この本の注目点は、表紙を見てわかるように『伝染るんです』などでお馴染みの吉田戦車氏がイラストを描いていること。彼は国立天文台水沢VLBI観測所のある岩手県奥州市水沢区出身で、発売されたばかりの著書『出かけ親2』にも同所を訪問したエピソードを掲載している。所長の本間氏が大学時代からファンだったという吉田氏にイラストを依頼したことで、このユニークなコラボが実現した。ブラックホールも含めて、とにかく宇宙の謎をユーモラスに教えてくれる一冊。本文もイラストも全編ふりがな付きだから、子どもでも漫画を読むようにボケにツッコミを入れながら楽しく学べる。
同じく、天文初心者にわかりやすくブラックホールを解説する読み物が『90分でブラックホールがわかる本』。こちらは、カサハラテツロー氏が漫画と挿絵を担当。著者は『14歳からの天文学』も執筆している、大阪教育大学天文学研究室教授の福江純氏。数式を多用せず文系読者にも理解しやすい言葉でブラックホールを語っている。「ブラックホール=美人説」を展開する、漫画に登場する「アルくん」にも注目だ。
『ついに見えたブラックホール』は、先述の記者会見の場にも立ち会った谷口義明氏が、その成果や今後について詳しく紹介する解説書。宇宙物理学の専門家が丁寧に教えてくれるのだが、個人的に興味を覚えたのは「報道関係者が押しかけた記者会見場に、取材を依頼されて出席した研究者の視線」だ。その貴重な経験が、この本のタイトルにも込められていると感じた。
『アインシュタインの影』は、ブラックホールの撮影に挑んだ外国人天文学者たちの心情に迫りながら、撮影成功へたどり着くまでのドキュメント。2012年から取材していたアメリカ科学雑誌編集者の著者が「これで一冊書ける」と確信したのは、「誰がノーベル賞をもらうべきか」とメンバーたちが盛り上がってるのを見たときだという。本誌でもお馴染みの渡部潤一氏が日本語版の監修をし、巻末では日本チームの果たした役割も紹介している。
『ホーキング、ブラックホールを語る』は、2016年にホーキング博士がイギリスのBBCラジオの番組「リース講義」で語った話を、BBC科学ニュースの編集者が解説を補足してまとめた書籍の文庫版。15分間で2回の講義に、ブラックホールのエッセンスが詰め込まれている。
最後は、ちょっと変わった児童書『ブラックホールの飼い方』。父親を亡くした11歳の少女が、ついてきた小さなブラックホールをペットにする物語。何でも食べてくれるが、悩みの種を入れるときはよく考えないと大事な物まで失ってしまう。心の穴を見つめ直す大切さを教えてくれる。
ブラックホールは光だけでなく、多くの人の興味と関心を引きつけてやまない。
(紹介:原智子)