サン=テグジュペリの『星の王子さま』でキツネは王子様に「かんじんなことは、目に見えないんだよ」と話す。金子みすゞは『星とたんぽぽ』で「見えぬものでもあるんだよ」と綴った。たしかに世の中には、目に見えない大切なものがいろいろある。そして、宇宙にも見えないものが存在し、むしろ「見えない(可視光ではとらえられない、見つかっていない)ものの方が多い」とさえ言われる。今回はそんな“見えない宇宙”を探る書籍を紹介しよう。
『宇宙の始まりに何が起きたのか』は宇宙マイクロ波背景放射(CMB)について、その道の専門家である著者が自身の経験を交えながら解説する科学新書。1964年に偶然発見されたCMBは、ビッグバンの決定的証拠となった。1992年に「温度ゆらぎ」が発見されると、21世紀に入り宇宙の構成要素や空間の曲がりなどが精密に観測され、いわゆる「精密宇宙論時代」を迎えた。CMBの研究進化を知ることは、「宇宙の始まり」を探る知的冒険を追体験するようでワクワクする。
そんな宇宙誕生時の姿を探るときに欠かせない、2つのキーワードについて解説するのが『「ニュートリノと重力波」のことが一冊でまるごとわかる』。マイクロ波によってとらえられた誕生間もない(約38万年後)宇宙の、さらに過去の姿を見る手がかりがニュートリノで、もっと昔(1秒まで)の最初期宇宙について知る手がかりが「背景重力波(ゆらぎ)」だという。まだ謎の多いニュートリノと重力波について、わかっていることといないことを区別して教えてくれる。
そんなニュートリノ研究の最前線を、臨場感たっぷりに紹介するのが『深宇宙ニュートリノの発見』だ。著者のチームは2012年、宇宙からの高エネルギーニュートリノ事象の観測に成功。2017年に宇宙ニュートリノ事象「IceCube-170922A」を検出すると、2018年に発生源となる天体が世界で初めて同定された。今後の「マルチメッセンジャー観測」に欠かせない、高エネルギーニュートリノ天文学の歩みと、科学者たちの苦悩が詰まった一冊。
次は、今回掲げたテーマにズバリの『見えない宇宙の正体』。宇宙の68%は正体不明のエネルギー「ダークエネルギー」で、27%が未知の物質「ダークマター」だと言われる。いずれも見えない存在で、解明されていない。この本では、実験や観測を中心に研究を進める著者が、ダークマターの正体に迫る。見えないダークマターを「どう見ようとするのか」、捕まえられないものを「どう捉えようとするのか」、あの手この手の方法で犯人に迫る推理小説のようなエキサイティングな科学解説書。
「見えない天体」の代表といえば、なんといってもブラックホールだろう。『世界一やさしいブラックホールの話』は、昨年のノーベル物理学賞受賞者の一人であるロジャー・ペンローズ博士が解き明かしたブラックホールについて、天文初心者にもわかりやすく紹介するビジュアル解説書。この研究がもたらすかもしれない未来も、なかなか興味深い。
最後の『宇宙と素粒子』は、編集者で長年にわたりブックナビゲーションサイト「千夜千冊」を運営する著者が、これまでに読んだ科学書の中から宇宙論と素粒子論にまつわる本を紹介する書評集。ガリレオの『星界の報告』、渡部潤一氏の『新しい太陽系』、池内了氏の『物理学と神』など26冊について取り上げている。
(紹介:原智子)