ガリレオは「どんな真実も、発見してしまえばだれでも簡単に理解できる。大切なのは、発見することだ」と言っている。いわゆる“コロンブスの卵”であるが、それはいつの時代もどんな分野においても変わらぬ真理だろう。今回は、様々なアプローチから「宇宙の謎を解き明かす」ことに迫る本を紹介しよう。
『宇宙の謎に迫る』は、「かわさき市民アカデミー」の講座から3つの最新宇宙情報を紹介した天文初心者用ガイドブック。「かわさき市民アカデミー」とは、生涯学習の場として1993年に開学した市民大学で、100講座を開講し年間のべ7000人が学んでいる。社会科学・自然科学・人文科学の多分野にわたる講座やワークショップなどがあり、専門家が講師を行っている。この本では福西浩氏による「オーロラから知る宇宙の環境」、吉川真氏による「『はやぶさ2』の挑戦とこれまでの成果」、本間希樹氏による「人類が初めて目にした巨大ブラックホール」を掲載。いずれも書籍発行(2020年6月)当時、世間で大いに話題を集めた天文テーマだ。市民が「最新の科学を知りたい」と思ったとき、全国各地で開かれている市民講座やカルチャースクールで「専門家の話を直接聞いて知識を得る」ことは、いくつになっても学び続けることのできる貴重な機会だ。
次の本もタイトルが前書に似ている『最新 宇宙の謎に迫る 天文学最前線』。こちらは大型のビジュアル参考書で、多くの写真や図解を用いながら天文全般について解説している。「宇宙の誕生と進化」「天の川銀河の構造と太陽系の形成」「地球と月の進化」「進む太陽系探査」という4つのチャプターに分けて解説。各所に挿入されるコラムも多彩で、個人的には「木星型惑星大移動説を裏づけたタギシュ・レイク隕石」や「最後の地磁気逆転とチバニアン時代」が興味深い。
科学が“仮説と実験”の繰り返しにより発展してきたように、天文学を研究するとき欠かせないのが“天体観測”だろう。現在では可視光線以外にも各種電磁波や重力波、ニュートリノなどの観測が行われている。そんな日本の天体観測の歩みについて、古い資料を中心にまとめたのが『天文遺産』だ。月刊誌『日経サイエンス』に連載中の「nippon天文遺産」を再録・編纂したもので、おもに国立天文台がアーカイブしている歴史的観測機器が収録されている。貴重な機器を紹介するカタログの役割だけでなく、それらを使って研究してきた先人の熱意も伝わってくる。最終章には、無数の天文ファンを育てた「五島プラネタリウム」(1957年〜2001年)も紹介されており、在りし日の河原郁夫氏が開館当時の解説員について語っている。
日本天文学会は2018年から「日本天文遺産」として8件の史跡・建造物、文献、物品を認定している。その第1回が『明月記』で、1054年の超新星の記述で有名だ。『日本に現れたオーロラの謎』は同書にも登場する“赤気(せっき)”について、オーロラの専門家が文理双方向から迫っていく。具体的には、異分野の研究者からなる「オーロラ4Dプロジェクト」が、国内外の古い文献を科学的に検証する。さらに、その結論が『日本書紀』の古い語彙や史実を決定することに発展する。また、江戸時代の『星解』に描かれたような「扇形オーロラをキジの尾に見立てる」日本人の自然観や感性にもふれている。時空も文理も超えた研究だ。
オーロラに限らず、様々な天文現象と古代文明の関わりを紹介したのが『古代文明と星空の謎』。本誌連載「三鷹の森」でお馴染みの渡部潤一氏が、巨石文化と天体の動き・ピラミッドと太陽・マヤ文明と暦・ポリネシアの天文航法・キトラ古墳の天文図について解説していく。世界各地の遺跡巡りをする気持ちで、天文知識を学ぶことができる。自然科学は文学や文化と融合することで、いっそう深く探究できそうだ。
(紹介:原智子)