Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2023年8月号掲載
この夏の星を見よう

ミステリーからエンターテインメントまで多彩な作品が魅力の辻村深月氏が、天文をモチーフにした小説『この夏の星を見る』を発刊した。6月末発売という、できたてのほやほや。筆者は書評という立場で一足早く読ませてもらい、しかも辻村氏にインタビューも行った。物語の設定は、2020年春。そう、新型コロナの流行によって誰もが他人と距離をとるように強いられ、未来が不透明に感じたあの日々だ。ただでさえ友人や家族との“心の距離”が難しい青春時代を過ごす少年少女が、さらに“体の距離”までとるように言われ行動制限されたら、いっそう息苦しくなるだろう。でも、そんなときに私たちの“距離感”を縮めてくれるのが星なのだ。多くの人が下を向きがちだったあの頃、天文ファンは窓を開けて夜空を見上げたはずだ。小説では、茨城・東京・長崎という別々の土地に暮らす中高生が天文を通じて交流し、それぞれの場所から同じ星に向けて自作望遠鏡を向ける。いま青春まっただ中の若い本誌読者はもちろん、むかし少年少女だった読者も、共感することがきっとあるはずだ。

そして「この夏、遠く離れたあの人と同じ星を見ながら会話しようかな」と思ったとき、相手が天文初心者だったら『夜空の手帳』を勧めるのはどうだろう。「夜空の基本」紹介や四季の星空案内、さらに天体に関する豆知識がぎゅっと詰まったガイドブック。持ち運びに便利なスマホサイズで、夜露に負けない丈夫でしなやかな紙、おまけに汚れ対策もバッチリのビニールカバー付き。巻頭グラビアをはじめ、オールカラーの本編にも美しい天体写真がたくさん登場する。アニメ化・映画化された『君は放課後インソムニア』の原作に協力した、能登の天文施設「満天星」も写真提供している。

一方、本格的な天体観測派は『光学機器大全』で望遠鏡やカメラのレンズ光学について学ぶのはいかが。光学系研究で優れた業績を残し2015年に102歳で他界した吉田正太郎氏が、2000年に刊行した書籍の復刻版。様々な光学機器に関する基本的な原理と技術について、豊富な図面を掲載しながら解説した名著。

次は、天体観測のベースになる太陽系について解説した図鑑を2冊紹介しよう。『太陽系大図鑑プレミアム』は、太陽系の最新情報をイラストと写真で説明したビジュアル本。アルテミス計画によって月や火星への関心が高まっている現在、この本で最新キーワードをしっかりおさえよう。

『世界で一番美しい太陽系図鑑』は、「(世界で一番美しい)元素図鑑」で知られるロンドンのアプリ会社Touch Pressのアプリを書籍化した『マーカス・チャウンの太陽系図鑑』を底本にしている。同書を増補および新訳し、さらに監修者を設けて新版化したものだ。このシリーズはその名の通り、大判の紙面にデザインされた写真が本当に美しくて思わず見とれてしまう。日本版出版社のお勧めポイントは、衛星を掲載したページとのこと。たしかに木星や土星の衛星の最新画像は、どれも個性的な表情をしていて面白い。

最後に紹介する図鑑『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』の最大の特徴は、様々な天体画像とともに、それをとらえた80機以上の宇宙望遠鏡にスポットを当てていること。「ハッブル」や「ジェームズ・ウェッブ」はもちろん、初めてガンマ線望遠鏡を搭載した「エクスプローラー11号」から2040年代に予定されているプロジェクトまで、宇宙を見つめる多種の瞳とそれがとらえた天体の姿がたっぷり収録されている。

ここまで星空観察で頼りになりそうな書籍を紹介してきた。梅雨が明けて晴れた夜空が広がったら「この夏の星に向けて、皆が、今、空を見上げよう」。

(紹介:原智子)