第5回 手塚治虫の世界その1
(星ナビ2005年5月号に掲載)
愛知万博サテライト事業「デラファンタジア」にメガスターを出展してほしいというオファーがきたのは昨年の秋くらいだろうか。故・手塚治虫氏のメッセージを星空のもとで具現化させる。そんな構想がスタートしてから、本当にめまぐるしい日々が続き、あっという間に本番を迎えている。
すべてが強行軍だった。課題は山積、何よりも時間が足りない。建物が完成したのは内覧会のわずか2週間前。番組制作はいうにおよばず、肝心のプラネタリウム本体「メガスターII-Titan」の制作もタイトロープだった。限られた時間の中ではあったが妥協はしたくなかった。特に大変だったのが映像演出だった。手塚氏のメッセージを形にするため、映像演出は単一画面でなく、4分割全天映像に挑むことにしたからだ。2003年末、日本科学未来館のクリスマスイベント用に開発、公開した全天映像システム「OGDS」の改良型だ。最低限一週間は必要だと考えて組んだ段取りは、会場の施工が遅れ、結局、満足に調整に割けるのはたった一日だけという、前回以上の切迫した状況になった。
そんな中で追い討ちをかけるアクシデント発生。複数に分割した映像のひずみを補正してきれいにつながった一枚の映像にする装置「ジオメトリプロセッサ」がいきなり故障したのだ。プレス内覧会の3日前のことだ。まさに万事休す。しかしあきらめなかった。故障したプロセッサをはずし、同じ機能を実現するソフトウエアをその場で開発することにしたのだ。ドームの座標とプロジェクタの画面座標の複雑な変換計算、そして座標データの取得用プログラムなど、とうてい間に合うわけがないと思えたが、完成させて気づけば、前回よりもはるかに完成度の高いシステムになっていた。そのソフトで映像を作り直して見事に完成、プレス内覧会にこぎつけたのだ。
100%の出来具合ではなかったが、そこには手塚氏の思いやメッセージが確かに映像と音で表現される、ひとつのシアターとして完成形を見せていた。そんな強行軍で奇跡的に公開までたどり着いた我らが「手塚治虫のコスモゾーンシアター」は、どんな内容なのだろうか。それはまた次の機会に紹介したい。
- 愛・地球博「手塚治虫のCOSMO ZONE THEATER」
- 開催時間・入場料など