第8回 家庭用光学式プラネタリウムが教えてくれたもの
(星ナビ2005年8月号に掲載)
今回は「ホームスター」の実現過程と反響です。いかにして「ホームスター」は登りつめたのか? 話は変わりますが、ここで仰天情報を。僕のプラネタリウム人生がテレビドラマ化されることになりました。詳しい話は次号にて!
驚愕のアクセス殺到
何が驚いたって、反響の大きさだ。セガトイズと共同開発した「ホームスター」を商品化するというニュースを、僕のホームページで発表したときのことである。様々な情報を載せているのだが、このときばかりはふだんと明らかに様子が違っていた。
「世界初の家庭用光学式プラネタリウムを製品化」という見出しを載せたとたん、すぐに問い合わせが相次いだ。アクセスカウンターが激しくまわり、やがてアクセスが不能になった。インターネット上の無数のブログ(おもに個人が運営している日記形式のサイト)に引用され、アクセス集中を引き起こしたためだとわかったのはだいぶ後のことである。ブログによる参照が新たな参照を呼び、ネット上の口コミ効果が、極めて短時間かつ大規模に広がっていったのである。そしてネット通販サイトで予約販売をはじめたとたん、玩具カテゴリーで売り上げ一位を独走。さすがにこれはただごとでないと悟った。
驚いた理由はふたつ。ひとつはインターネットの世界での個人サイトの情報発信力だ。少し前までは、大規模な情報発信は、大手のメディア資本にしかできなかった芸当だが、ネットの普及は、個人にそのチャンスを与えたのである。おもしろく、価値のあるニュースであれば、それは巨大メディアに匹敵する影響力を持つ。しかしそこに踏み込むと話題が変わってしまうのでそれは別の機会に譲ろう。ここで主眼にしたいのはもうひとつの驚き、つまりプラネタリウムという商品が、これほど関心とニーズを持ち得るという事実である。
ホームスターが示すもの
兆候はあった。メガスターを通じた様々な仕事で出会った人に、家庭用プラネタリウムを考えていることを話すと、「いいですねえ、欲しいですねえ」という反応が多かった。でも、自分のまわりにはそういうものに興味を持つ人ばかりが集まっているのかもしれないし、実際に売ってみて興味を持たれるかは別だという思いもあった。プラネタリウムは生活必需品ではないし、万人が興味を持つものでもない。少なくともそう考えられてきたと思う。しかし今、僕の目の前にある事実とは、メガスターの成功であり、そしてホームスターの過熱現象である。ホームスターはまだ発売されていない。だから商品がユーザーに評価されたわけではない。しかし少なくとも、人々がプラネタリウムに関心を持っており、潜在ニーズがあったということは証明されたのだ。問題は、それにどう応えるか、だけだった。ホームスターは僕らにそのことを教えてくれたように思う。
ホームスターを生み出したもの
これだけ見ると、少々、コロンブスの卵のようにも見えるホームスターだが、決して簡単に生まれ出たのではない。この話が来たのはちょうど2年前、東急文化会館でメガスターIIの初公開に追われていたときのことだ。セガトイズの商品企画を担当している加藤氏から、何とかこういう商品を実現できないかという相談を受けた。夢と情熱はあったが、それが実現でき、商品として市場で受け入れられるかは全く未知数だった。しかし懐疑的な声にも負けずにその可能性にかけ、技術的、コスト的な問題をクリアして進んできたからこそ、今日があるのだ。僕はできうる限りの技術とアイディアを提供したつもりだが、この商品の可能性に賭けて諦めずに商品化をめざしてきた加藤氏や、協力をかってでた光学メーカーの方に心から敬意を表したい。