メガスターデイズ 〜大平貴之の天空工房〜

第15回 ホームスター大ヒットの要因

星ナビ2006年3月号に掲載)

セガトイズと共同開発したホームスターが予想外の大ヒットになっています。年間目標販売数量1万台に対し、昨年夏に発売以来わずか3か月で5万台を売り上げ、今もそのペースは落ちていません。その成功の秘密とは?

ホームスターは、その好業績が評価され、DIMEや日経新聞などの経済紙から、2005年を代表するヒット商品として表彰された。ほぼ同時期に発売した学研の大人の科学「マイスター」もまた、10万部以上という空前の売れ行きである。

この成功を一体誰が予測しただろうか? プラネタリウム自体がニッチな分野であったし、家庭用プラネタリウムは今までも存在したが、細々とした(失礼!)ものだった。だからホームスターの計画も、実現性や売れ行きに懐疑的な声が多かったのだ。

ホームスターもマイスターも、様々な工夫とこだわりはあるものの、基本的には既存技術の応用であり、画期的な新技術に基づくものではない。開発時に我々(セガトイズ&大平)がやったことは、メガスターの成功要因を分析し、重要な部分を極力削がないで実現し、それ以外を徹底的に省いたことだった。惑星投影機能がないこと等を指して、中途半端でプラネタリウムとは呼べない、といった批判があることも知っている。でもそこにこだわっていたら、ホームスターは実現できなかったのである。だからホームスター成功の要因を問われたら僕はこう答える。これは商品企画の勝利だと。

株式会社セガトイズの企画担当の加藤氏から家庭用プラネタリウムの打診を受けたのは、2年半前のことだった。彼が寝室で何気なく、寝ながら星を見られたらいいだろうな、と思いついたのがきっかけだったそうだ。僕は彼の提案に興味を持ったのだけれど、実現できるか、商品としてどのくらいの可能性があるかははっきりイメージしていなかった。商品をこうしたい、という明確なイメージを持っていたのはあくまで加藤氏だった。僕は技術を持っていたが、彼の構想や夢を実現する側だったのである。

「私は技術のことはさっぱり分かりませんが」が加藤氏の口癖だった。確かに加藤氏は天文学や工学の専門知識はあまり持っていなかったかもしれない。けれどそれ故の謙虚さと、聞く耳、しかし自分はこういう商品を生み出したいという一貫したイメージを持っていた。僕は、そのイメージを実現するためにアイディアを出したり提案を出したりしたが、彼はとても仕事をしやすいパートナーだった。メガスターの活動で忙しい時はこちらの事情に配慮してくれつつ、製造会社を探したり(尻込みする会社が多かった)など、夢を実現するための着実で地道なステップを進めていたのである。

そうした努力の甲斐あって、ホームスターは実現することになった。困難だった恒星原板も、星数1万個の難題をクリアした。いよいよゴーサインというところで僕は加藤氏に持ちかけた。「もう少しこだわりたい。特に天の川を」。常識的に考えれば、ずいぶん無理な相談である。しかし加藤氏は、発売スケジュールへの影響もあったろうに、OKを出してくれたのだ。その結果、ホームスターの天の川はメガスターゆずりとなり、星の集団で表現されることになった。当初予定の1万個ではない、実質6万個という、当初目標を超えた再現力は、この土壇場の思いつきとこだわりでもたらされたのである。

ここで、加藤氏が、1万個の仕様は既に満たしているのだからと、一般的なサラリーマン的判断でスケジュールを優先していたら、今のホームスターはなかったと思う。加藤氏が、改良原板がもたらす天の川の質感が、何をおいても捨てがたいものだからと理解してくれたからこそ、今のホームスターが生み出されたのだ。

この一連の出来事は、商品を作り出す上で何が重要かを教えてくれる。それは案外素朴なものかもしれない。自分が欲しい思うものをリアルにイメージし、その最も重要な部分を落とさずに実現すること。妥協できるところは徹底的に妥協すること。そして、目標を達成したところからあと一歩、余分かと思えるようなこだわりを加えること。

僕が思うに、ホームスターがこんなにヒットするとは当の加藤氏もたぶん予想していなかったと思う。でもそれだからよかったのだ。売れると思う商品よりも、自分が心から欲しいと思う商品を作ること。それが結果的にヒットにつながるのかもしれない。商品への明快で一貫した夢を持ち続け、技術者としての僕の思いを共有してくれた加藤氏は、あらためて商品企画の重要さと、その中で何が大切かを教えてくれたと思うのだ。

セガトイズ 加藤氏

株式会社セガトイズの加藤武彦氏と、ホームスター。彼の謙虚さと、こういう商品を生み出したいというしっかりしたイメージが、製品のヒットを生んだと思う。画像提供/株式会社セガトイズ