第32回 日本橋から坂戸へ ―デジタル映像への更なる挑戦―
(星ナビ2007年9月号に掲載)
6月いっぱいで日本橋HD DVDプラネタリウムが終了。延べ半年にわたる公開で25万人を超える来場者を数え、成功裏に終幕を迎えることができました。さて、次なる一歩は……。
「宇宙へのパスポート」をメガスターで
日本橋HD DVDプラネタリウムが終了した。都内一等地での長期公演はメガスター観覧の機会を増やし、認知度とイメージの向上にも大きく貢献した。しかし手放しで喜べることばかりではない。メガスターの投影用としては必ずしも理想的とはいえない扁平型ドームの使用。そして日本橋のメイン番組であった「北斎の宇宙」の打ち切りなど、課題も数多く残った。そんな日本橋で途中から投入された新番組「宇宙へのパスポート」に僕は密かな関心をもっていた。
プラネタリウム番組「宇宙へのパスポート」は、アメリカのヘイデンプラネタリウムで2000年に制作・公開された作品である。最新の天文学の成果をデジタル映像で披露し、観客を宇宙の果てまでいざない、世界のプラネタリウム界の話題をさらった。これにJAXAの宇宙連詩を組み合わせたバージョンを日本橋で公開することになったのだ。
これまでメガスターでもデジタル映像を駆使した番組を上映したことは幾度となくある。しかし、こういう時に多く耳にしたのが、映像作品よりも星空を見せてほしいという声である。僕は、メガスターの特性ゆえに星空以外の上映内容がなかなか受け入れられないジレンマと受け止めてきた。では、世界最高レベルと評価の高い「宇宙へのパスポート」ではどうなるか?に興味をもったわけだ。
結果は、予想以上の大絶賛の声だった。投影環境のハンデがあるにも関わらず、全天周デジタル映像をあまり見慣れていない日本の観客に、大きなインパクトを与え感動を広めることに成功した。
これが意味することは何か? つまり、これまで寄せられた声は、デジタル映像という手法自体が良くないのではなく、メガスターで僕が公開した内容が未熟だったにすぎない。つまらない映像を多用するくらいなら、星空だけのほうがまし、という意味だったのだ。デジタル映像には言うまでもなく無限の可能性がある。あくまで作品次第。「宇宙へのパスポート」の成功は、当たり前のことを改めて示してくれたのだ。
“新生”七夕ランデブー 公開へ
6月30日、日本橋公開が終了したその日、成功裏の終幕を祝う余裕は僕にはなかった。次なる舞台、埼玉県坂戸児童センターの設営が翌日に控えていたからだ。日本橋から機材を撤収しそのまま坂戸に設置という強行軍である。そして上映番組は、昨年も公開したオリジナル番組「七夕ランデブー」である。前回賛否両論となった本作は、児童向けながら、僕のデジタル化に向けたトライアルのひとつの成果である。
今回こそ成功を収めるため、作品には大幅な改修を施した。2度の種子島ロケ、外部プロダクションへの委託を大幅に増やしてのCGカットの増強、演出の再調整。半ば採算度外視で徹底的に改良を加えた。デジタル映像の可能性を切り開き、僕自身が、いや大平技研が、デジタル映像に向かうプラネタリウムの世界で、これから新たな価値を生み出すことが可能なのだろうか? という問いに答えを導きたかったからだ。そして、新たな思いをぶつけて完成された“新生”七夕ランデブーが、坂戸児童センターで公開されたのであった。