天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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2008年5月2日発売「星ナビ」6月号に掲載

アンドロメダ大銀河に出現した明るい新星 2007-11d in M31

2007年11月17日夜は、17時40分に母から「実家に業者が来ている」という電話があり、急いで起きて、実家に向かいました。早く起きたことを幸いに、南淡路のジャスコまで出かけ、久しぶりにゆっくりと買い物をしました。帰り道、三原のリベラルに立ち寄り、オフィスに戻ってきたのは21時40分のことでした。その夜の深夜、西山浩一氏から電話があります。椛島冨士夫氏との共同捜索で、また、アンドロメダ大銀河中に新星を発見したというのです。『また……』というのは、先月号で紹介した山形の板垣公一氏とともに独立発見した新星(2007-10a)に続き、板垣氏は、11月13日に別の新星2007-11cを発見していたのです。さらに、2007年末までに、板垣氏は、アンドロメダ大銀河に出現した新星2007-11e、2007-12c、西山・椛島氏は、2007-12a、2007-12b、2007-12dを発見することになります。今回は、その中で明るくなった1つの新星発見2007-11dについてです。

西山氏は「M31に新星を発見しました」と話します。M31の新星発見が続くためか『また、ですか……』とあまり興味なさそうに答えてしまいました。とにかく、氏からの報告を待つことにしました。そのメイルは11月18日00時10分に届きます。そこには「11月17日22時39分にアンドロメダ大銀河の一区画を20秒露光で撮影した画像に17.1等の新星を発見しました。この新星は、前日16日21時16分に撮影した捜索画像にすでに17.7等で出現しています。しかし、11月14日に撮影した画像には、その姿が見られません。新星は、その後、23時15分には16.9等に増光しています」という報告が書かれてありました。氏らの発見は、11月18日01時02分に中央局のダン(グリーン)に連絡しました。01時29分には、上尾の門田健一氏から「すぐ望遠鏡を向けて、18日01時17分に撮像しましたが、南東の13等星と分離できず、測定は無理でした。ピョコンと北西方向に星が出っ張っているのは分かります。新星は、存在しています」という確認報告があります。

さらに、氏からは、01時41分に画像が届きます。新星は、明るい星のすぐそばにまるで赤ん坊のように写っている……またまた可愛い新星でした。さらに、美星の浦田武氏から門田氏より数秒遅れのメイルが到着します。そこには「1.0-m望遠鏡で西山・椛島氏発見の新星を確認しました」というメイルとともにその出現位置と光度が書かれてありました。01時45分に門田氏には『ご苦労様です。今夜、観測しようと思っていたのですが、曇ってしまいました。8Pが11等級くらいになっているという報告がありますが、観測されましたか。画像を受け取りました。新星がはっきりと見えるじゃありませんか。かわいいねぇ……。彼らの望遠鏡も焦点距離が長いので、分離できているのでしょうね』というお礼のメイルを送っておきました。02時07分には、門田氏より「お天気は残念ですね。こちらは朝まで持ちそうです。8Pは、空が明るい夕方に観測しましたので、写りはイマイチですが、小さく集光した明るい部分を淡いコマが取り囲んでいます。明日には測定してみます」という返答が届いていました。02時32分には、西山氏から発見画像が届いていました。04時頃になって、椛島氏から「中央局への発見報告が届いてない」と連絡があります。そのため、04時07分に再度、彼らにそのメイルを送っておきました。この夜は、07時40分に業務を終了し、帰宅しました。自宅には、久しぶりに犬ちゃんが待っていました。『おい、また、M31に新星が見つかったよ……』と話しながら、買っておいたコロッケをあげました。

その日(11月18日)の夜、21時20分、西山氏から「新星が15等級まで明るくなっている」という電話が自宅にあります。昨日には、新星は17等級でしたので、この1日足らずの間に急激に増光したようです。急いで仕度を整え、21時50分に自宅を出て、ジャスコで食料品を購入し、22時20分にオフィスに出向いてきました。すると、夕刻16時24分には、山形の板垣公一氏より「こんにちは。山形は冷たい雨が降っています。これからの山形の天気は中々晴れません。昨夜の夕方は晴れていたはずですが、還暦の同級会で温泉に泊まりでした。16日には私も捜索しましたが、気がつきませんでした」というメイルが届いていました。そして、出向いてきた10分後の22時35分には、西山氏から「今夜18日21時41分には、新星は15.6等まで増光しています」というメイルとともに、前後2回の測光値が報告されます。もちろん、このことは、22時53分にダンに報告しておきました。

11月19日の朝05時13分に、オランダにいる蓮尾隆一氏から、この頃増光していた17P/ホームズ彗星について「あまりにも大きく見えて、C8望遠鏡にPL32-mmをつけた視野より一回りか二回りくらい小さいだけで、なんとも不思議な光景です。長生きして良かったと思います(……と、百武彗星を見た冨田弘一郎さんも言っていました)。また、200-mmレンズ+3秒の固定撮影で簡単に写るので、家に居て、晴れていると、ちょっと外へ出て写しています。数枚撮っているので重ね合わせるといいのかなと思うものの適当なソフトを知りません。どこかにフリーソフトがあるのか、ステラ……なんとかでも買わねばならないのか、分かりません。教えてください。天体写真なんて何十年も撮らなかった気がしてますが、その間の進歩って本当にすごいですね。添付の画像は、昨日の写真の一部を切り取って、少し軽くしたものです。今日は雲が出ているし、月もまだ沈まないから無理そうだなぁ……」というメイルがあります。

そこで、06時12分に『観測をしていました。03時頃から快晴になりましたが、セッティングが悪く、写野(15'x8')に目標物が何も入ってこなかった。くそ〜〜。添付の写真は、その前にデジカメ+25-cm反射(写野が1゚.1x45')で30秒露光で撮ったものです。この輝星は、ペルセのα星ですか。フル・サイズです。視直径が40'足らずでしょうか。8P/タットルも、デジカメで撮りました。北極近くにあるせいか、デジカメの広い写野にも、中々入ってこず、苦労しました。やっと増光を始めたようです。でもデジカメは、すごいよね。画像処理は、ステライメージが良いでしょう。測光もできます。このソフトで処理した星雲などのすばらしい写真を天文雑誌で見ます。ただ、ぼけている彗星を重ねても、中々、ディテールが出てきません。門田さん、使い方が悪いのでしょうか』というメイルとともに、この夜の17Pの画像を送りました。

すると、07時37分に蓮尾氏から「これって、30秒露出の一枚ものですか? すごいですねえ。デジカメや中野さんの腕がすごいのではなくて、17Pがすごいのかもしれませんが……。いずれにしても、もうしばらく楽しませて欲しいものです。もう少し余裕があれば、どこかにあるはずのアダプターを探し出して、C8にデジカメをつけて、直焦点で撮るのですが、いろいろと雑用が忙しくて、何もできません。なんとかしてステライメージを手に入れます。アドバイスをありがとうございました。今日は、女房とアムステルダムのアンティーク・フェアに行きました。19世紀のオランダの風景画家でSchelfhoutという人が居るのですが、この人の描く冬景色が素晴らしくて、いつもこの種の会に出かけると、つい見とれます。小さな油絵でも10-20万ユーロ以上もするため、到底、買える代物ではありませんが、こういうものが展示会で売りに出て、今日から始まったのに、すでに売約済みの札がついているというところに欧州の豊かさというか、豊かさの深さを感じます」というメイルがあります。また、同時に送付したダンからも07時46分に「良い写真だ。撮った日付と露出時間を教えてくれ。ICQのウェッブ・ページに入れたよ」というメイルが届きます。そこでダンには、08時04分に『もっといい写真が多くのウェッブ・ページに出ているけど……』というメイルとともに答えておきました。そして、08時18分に蓮尾氏に『そうですよ。一枚ですよ……。何枚重ねても綺麗にならないので……。いいなぁ……。もう一度、外国で誰に気がねすることなく暮らしてみたい。あのコロナも見えそうな、まっ青な青空と街をも染めるボストンの紅葉の中で……。でも、もう、夢のまた夢になりました』というメイルを送り、09時05分、快晴の青空の下、帰宅しました。この日は、大そうじの日です。昼過ぎまで、掃除に時間を費やし、眠ったのは15時頃のことでした。

その疲れのせいか、その夜にオフィスに出てきたのは、11月20日00時40分になってしまいました。外気温6℃の寒い夜でした。この夜は、この新星に関係した情報は何も送られてきませんでした。ただ、門田氏からは02時46分に「25-cm反射+CCDでは、添付の画像のような写りです。ステライメージをご紹介いただき、ありがとうございます。天文雑誌に掲載された星雲などの画像は、シャープ系のフィルタでディテールを強調していると思います。「星ナビ」2007年6月号とそれ以降の号の「星界一受けたい画像処理講座」でフィルタを使った画像処理方法が掲載されていますので、参考にしてみてください」と11月18日00時53分に20秒露光で撮られた画像が送られてきました。

次の日、11月20/21日の夜も、オフィスに出向いてきたのは、夜半を過ぎた21日00時50分になってしまいました。すると、その日の午後13時08分に板垣氏から「こんにちは。M31の新星が、まだ公表になっていないので、観測報告します。11月19日21時31分に光度が15.1等でした。ゆっくりと増光する(大物)新星のようですね」という報告が届いていました。そして、21時54分には、西山氏から「20日18時14分に14.9等、21時頃に15.1等であった」という報告もあります。これらの観測は、00時56分と01時00分にダンに知らせておきました。ダンは、明るい新星のため、05時51分到着のIAUC8898で、氏らの発見を公表してくれました。西山・椛島氏には、07時03分にこの公表を連絡しました。そこには『西山さん、OAAに入った方が良いですよ。相棒の椛島さんだけ、賞金がもらえるのも申し訳ないですので……』と書き添えておきました。そのIAUCを見た板垣氏からは07時25分に「おはようございます。M31の明るい新星、そして銀河系内の新星状天体の発見、おめでとうございます。椛島さん、スイスの美しい画像を拝見しました。ありがとうございました。中野さん、報告の大役いつもながらご苦労様です。取り急ぎお祝いまで……」というメイルが発見者に送られていました。

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アポロ型小惑星 2007 YZ

1891年、ドイツのハイデルベルグで本格的な小惑星捜索が始まって以来、小惑星の新発見として、仮符号が与えられた天体は、75万5396個にもなります。もちろん、これらの小惑星の中には、年月を隔てた同一天体が含まれているでしょう。これらの天体の中で、現在、軌道が計算されている小惑星は、40万3651個(小惑星センター公表値は40万3356個)です。その中で、近日点距離が地球の軌道半径より小さいアポロ型(アテン型を含む)天体は、約3000個と全体の1%もありません。さらに、我が国発見のアポロ型小惑星は、わずかに8個。1個を除いて、すべてアマチュアによる発見です。従って、ある意味では、アポロ型小惑星の発見は、彗星の発見より貴重なものと言えます。そのアポロ型小惑星も、アマチュア発見の天体は、1998年12月に浦田武氏によって発見された1998YM4で途絶えてしまいました。その後、美星スペースガードセンターで、2000年10月に(20826)2000 UV13が発見されています。その後の7年間は、我が国では、アポロ型小惑星の発見はただの1つもありませんでした。さらに、今では、アマチュアで本格的な小惑星サーベイを行っているのは、北海道北見の円舘金氏ただ一人になってしまいました。

12月3日夜は、翌4日の早朝に母をつれて京都まで出かけるために夜中まで眠り、12月4日00時45分に起床し、01時25分に自宅を出て、ガソリンを入れて、02時25分にオフィスに出向いてきました。すると、その円舘氏から12月3日22時15分に1通のメイルが届いていました。そこには「昨夜にペルセウス座をサーベイした画像のチェックをしていましたが、17等級の小惑星が画像の端ギリギリに写っていました。南北に速い移動天体と思われます。MPチェッカーで確認しましたが、該当する天体はありませんでした。先にNEOとしてどこかで発見されているのでしょうか? こちらは、今夜は曇天で撮影ができません。2夜目の確認観測をしたいのですが、今夜は無理です。どなたかに確認観測をしていただければ幸いと思います。2夜目の観測が無いと不安でが、とりあえず報告します」という高速移動天体Ex129の発見報告がありました。『これはいけない。寝すぎてしまった』と業務の怠慢を恥ずかしく思いながら、Ex129の動きを求めると日々運動にして約40'近くあります。離心率は0.30とちょっと小さいのが気がかりですが、高速移動天体には違いありません。そのため、02時40分に氏の発見を小惑星センターに伝えました。そして、上尾の門田健一氏と美星に『今、出てきました。円舘さんより確認の依頼がありましたが、ちょっと間に合わないようです』という申し訳ないようなお詫びとともに今夜の予報位置を連絡しました。02時48分のことです。門田氏からは「現在はこちらは曇っています。彗星を観測していたのですが、01時半ごろから、全天が雲に覆われました」という連絡があり、さらに03時37分に美星の西山広太氏からも「こちらは00時頃から現在まで曇天で観測できておりません」というメイルが届きます。『早く出て来ていても確認はダメだった』と内心ほっとしました。

12月4日は、早朝から京都に出かけ、自宅に戻ってきたのは、その夜の21時35分でした。寝ないまま出かけたために、少し睡眠をとって、オフィスには12月5日01時40分に出てきました。そのとき、空は、よく晴れていました。すると、20時25分に円舘氏から「Ex129の追跡は間に合わなかったようですね。残念です。門田さんも、曇天で観測ができなかったようですね。今夜は、夕方晴れ間がありましたが、現在は小雪が降っています。明日も天気予報は曇りで、私の方では追跡観測は無理そうです。本州の方で追跡観測していただければ幸いです」というメイルが届いていました。『北見はダメか……』と思いながら、続くメイルを見ると、美星の橋本就安・西山氏から20時52分に「昨日、ご依頼のあったEx129です」というメイルとともに、20時台に行われた7個の追跡観測が届いていました。さらに、円舘氏からは、22時51分に「晴れ間があったので観測所に行ってEx129の追跡を行いました。何とか撮影できましたので2夜目の報告します。今は、また曇ってしまいました」というメイルとともに12月4日21時半から22時半頃に行われた4個の観測も届いていました。しかし、私から、返信がないことを心配したのか、23時24分に「先ほど、観測所からEx129のデータを送りましたが、届いているでしょうか? 再度、2夜のデータをまとめてお送り致します。今夜のデータは雲にかかって撮影した画像もあるために精度が悪いかもしれません」と同じ観測が届いていました。

また、12月5日01時20分には、門田氏からも「雲間から観測できました。以下の星が依頼を受けた天体Ex129のモーションに合っています。恒星状です」というメイルとともに00時30分頃に行われた2個の観測も届いていました。再び、業務の怠慢を恥ずかしく思い、顔を赤らめながら、その軌道を決定しました。すると、何と得られた軌道は、近日点距離 q=1.91AU、離心率 e=0.49、周期が P=7.30年という特異な軌道でした。『これは、小惑星でなく、彗星の可能性もある』と、ここ10年間、久しく途絶えていた興奮を感じました。この結果は、02時20分に小惑星センターのティム(スパール)とギャレット(ウィリアムズ)に連絡しました。02時26分には、センターでも似たような軌道が決定できたのか、「この特異天体は、まだ、どこでも発見されていない。おめでとう」という案内が届きます。これで『やった! 10年ぶりの快挙じゃ……』と万々歳でした。

ところが……です。ティムから03時14分にメイルが届きます。そこには「Ex129は、約1か月前に発見されていた2007VT14と同定された」という連絡がありました。急に目の前が真っ暗になり、よたよたよた……と、よろけそうになりました。必死に身を支えながら、その軌道(a=2.61AU、e=0.33、i=31゚)を見ると、フォサエ型小惑星(a=2.37AU、e=0.24、i=24゚)に少し似た軌道のようです。この種の天体は、地球に接近したとき、その動きが速くなり、高速移動天体と間違われることがよくあるのです。もちろん、このことは、『むか!』というSubjectをつけて、協力いただいた関係者の方々に連絡しました。円舘氏からは、その夜の20時43分に「先に発見されていましたね。残念です。また、皆さんに追跡観測をしていただき、ありがたかったです。現在、彗星の発見を目指してサーベイを行っています。少しずつ、サーベイ範囲を広げることができています。あとは、運があれば、発見できると思います。しかし、私は運が無い男なので……。でも、小惑星の発見数は少なくなりますが、彗星・特異小惑星の発見が楽しみです。また、次回の発見を楽しみに観測します」というメイルがあります。円舘さんは、1994年に木星に衝突したシューメーカー・レビー第9彗星を彼ら(発見者)より先に発見していたこともあります。今後に期待しましょう。

さて、その騒動があって、約2週間後の12月18日00時45分、電話が鳴ります。受話器を取ると、美星の西山広太氏からでした。氏は「ふたご座を日々運動約60'で移動する18等級の高速移動天体を見つけました」と話します。以下、次号に続きます。

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