126(2015年9月)
2016年2月5日発売「星ナビ」2016年3月号に掲載
- 超新星状天体 in NGC 5921=PSN J15220552+0503160
- いて座新星 2015 No.3=V5669 Sgr
- 超新星 in NGC 3430=PSN J10520833+3256394
- いて座新星 2015 No.3(続き)
超新星状天体 in NGC 5921=PSN J15220552+0503160
2015年9月11日23時01分に山形の板垣公一氏から携帯に「富山の青木昌勝さんが超新星状天体(PSN)を見つけた。青木さんは、もう一夜の確認を……と言うが発見は間違いない。そちらに報告を送ると言っていました」という連絡があります。さらに板垣氏は「中央局の超新星確認ページ(TOCP)に入れてもらえますか。もうすぐ青木さんから報告が届くと思います」と話します。私は『発見画像があったほうがいいでしょう』と答え、青木氏からの報告を待つことにしました。このとき私は、8月から9月かけて新たに報告された彗星の観測中、従来の軌道からのずれ(残差)の大きい彗星について、その軌道改良を行う作業がほぼ終了していました。それらの軌道と残差をまとめ、世界の観測者に送付するためのファイルの準備をしていました。
しかし、1時間が過ぎても青木氏からの報告がありません。そこで、9月12日00時28分に板垣氏に『まだ来ないよ〜』と連絡を入れました。すると氏は「画像を小さくカットするのに手間取っているのでは……。もう少し待ってください」とのことでした。そこで再び彗星の軌道ファイルの編集に戻り、00時51分にそれらを観測者に送付しました。その2分後の00時53分に青木氏から発見報告が届きます。彗星の改良軌道と残差を00時58分に国内の観測者にもEMESで送ってから、青木氏のメイルを見ました。
そこには「ご無沙汰しております。お元気でしょうか。9月11日20時08分に50cm望遠鏡でへび座にあるNGC 5921を撮影した捜索画像上に、18.5等の超新星状天体を久しぶりに見つけました。画像の極限等級は19.7等です。超新星は、銀河核から東に142″、南に57″離れた位置に出現しています。なお、西の視界が悪く発見から30分ほどしか撮影できません。しかし、その間の10枚の画像では移動は認められません。NGC 5921は、2015年に入って数枚撮影しています。最後の画像は8月8日に撮影しましたが、いずれの画像にも今回のPSNは写っていません」という報告がありました。
この青木氏の発見は、01時20分にダン(グリーン)に送付しました。報告後、板垣氏に『こんな暗いPSN、大丈夫……』と聞くために01時35分に連絡を入れましたが、応答がありません。その氏からは06時40分に「寝てしまい着信に気づきませんでした。TOCPに画像がなかったので入れておきました。爆発直後の超新星のようですね」というメイルが届きます。青木氏からは09時16分に「今回のPSNの件、いろいろとありがとうございました。超新星だとすれば15年ぶりの発見になります。昨年(2014年)から捜索を再開し、仕事の合間をみながら観測しています。発見画像は私のウェッブ・サイトに掲載しておきました。今夜晴れれば再撮影してみます。今後ともよろしくお願いいたします」という連絡があります。なお、氏のメイルにあるとおり、青木氏は1996年からの4年間に12個の超新星を発見しています。その最後が15年前の2000年8月23日に発見した超新星2000diでした。
青木氏のこの発見があった前日(9月10日)には、台風18号が東海から日本海に抜けていきました。同じ時期に日付変更線を越えてはるばるやってきた台風17号の影響もあいまって、9月9日から10日にかけては、ここも大雨が降りました。9月11日夕方17時頃、オフィスに出向くと、法人所有の雑居ビルの2階に入っている土木業者から「20台を停めてある駐車場のいたるところに大きな穴が空いて、水溜りでびちゃびちゃだ。整地してくれないか」という申し出があります。……と言っても、我が社はもう幽霊会社です。そんな費用はありません。すると「うちの若い者にやらせるから、コンクリートの破材が締まりがいい。ダンプカー2杯分くらいの砂利を買ってきてくれ……」とのことです。そこで『時間ができたとき、砂利業者に行ってきます』と答え了解してもらいました。
ところで、2つの台風の影響をまともに受けた関東には、1日以上も位置を変えない南北に長く伸びた線上降水帯が形成されていました。その下にある千葉、埼玉、茨城では、平年9月の2倍以上の大雨が降り、各地で洪水など大きな被害が出ました。9月11日にはその降水帯が東北地方に移り、仲間の住んでいる大崎や栗原でも大きな被害がありました。しかし9月12日には、その南にある香取では天候が回復したようです。野口敏秀氏から20時07分に「私の機材では捜索時18.5等の発見は無理です。今回の確認は40秒露光の16枚のフレームを重ねた画像からです。皆さんの機材が大型化しうらやましい限りです」というメイルとともに「PSNは、9月12日18時56分には18.8等でした」というこの超新星の観測が届きます。野口氏の観測を見た青木氏からは21時17分に「はじめまして青木です。PSNを観測していただき、ありがとうございます。奥飛騨は、今夜は天候が悪く撮影できませんでした。添付された画像を見ると、昨夜から光度変化はなさそうです。もしかして、LBV(系外の大型新星)では……とも考えています。しばらく継続して観測してみます」というメイルが送られていました。なお、野口氏の観測は21時35分にダンに送付しておきました。
9月13日朝、07時13分に野口氏から青木氏に「おはようございます。実は私は、超新星の捜索を始めた16年ほど前に青木さんに色々とご指導していただいた者です。当時はまだ比較画像がなく、画像を調査していただいたことを大変感謝しております。おかげさまで、その後に2個の超新星に巡り会えました」というメイルが青木氏に送られていました。青木氏からは、その夜の22時25分に、9月13日19時08分にNGC 5921を撮影した画像とともに「今夜雲の切れ間から撮影したPSNの画像です。やはり発見時の等級と変わりないようです。野口さん。16年前のこと、思い出しました。失礼しました。ほんとにご無沙汰しております。その後の2つの超新星の発見、おめでとうございます。こうしてまたご縁ができたとは嬉しいですね。昨年から仕事の合間をみて、またSNの捜索を再開しましたが、しばらく遠ざかっていた間に捜索分野の環境がずいぶん変化したようで、ちょっと戸惑っています。いろいろ教えてください。今後ともよろしくお願いいたします」という返信が野口氏に送られていました。どうも、捜索者の世界は意外と狭いもののようです。
9月14日00時54分に栗原の高橋俊幸氏から「9月11日の豪雨では、栗原で2名の犠牲者が出るなど甚大な被害が出ました。幸いなことに、私の住む地域では浸水などの被害もなく、当日も無事に出勤することができました。天候が回復した9月12日早朝には、観測を行うこともできました。なお、大崎市では渋井川が決壊し、遊佐さんが勤務する大崎市生涯学習センターの数百m先まで氾濫した水が迫ったそうです。遊佐さんとは連絡を取り合い、お互いの無事を確認しました」という大雨の状況を伝えるメイルが届きました。なお、この超新星状天体は、その後の観測があったものの光度が暗かったせいか、スペクトル確認が行われなかったようです。
いて座新星 2015 No.3=V5669 Sgr
9月27日は中秋の名月でした。台風21号が先島諸島、台湾方面に向かっているもののよく晴れて、空には月がまばゆく輝いていました。よく澄みわたった秋の空となり星もよく見えていました。夕方になって南淡路まで資材の買い物に出かけました。部屋と部屋の間にあるガーデンテラスに小さくて背の高い温室を作り、その中に2m以上に大きくなったパパイヤの木を入れるためです。このパパイヤの木は、スーパーで売っているパパイヤの実から採った種から育てたものです。ご存知ですか。パパイヤは成長力がものすごく強く、植木鉢に蒔いた種はほとんど全部が育ち、数か月で大きなパパイヤの木になります。しかし寒さには弱く、冬には凍傷になって全部枯れてしまうのです。最後に南淡路のイオンで食料品を購入して、オフィスに戻ってきたのは21時10分のことでした。
すると、山形の板垣公一氏から20時08分に「新星らしき天体です」というメイルが届いていました。その少し下には20時57分に香取の野口敏秀氏から早くもその観測が送られてきていました。まず、板垣氏からは「先ほど新星状天体(PN)の発見をTOCPに入れました。9月27日19時18分にいて座に発見した9.9等のPNです。のちほど詳細を報告します」という発見報告がありました。野口氏からは「板垣さんのPNを23cm望遠鏡で20時35分に観測しました。光度は9.8等でした」という確認観測でした。このとき、板垣氏からはまだ発見報告が届いていません。とりあえず、野口氏の観測を21時18分に「このPNは、Itagakiが発見したものだ。すでにNoguchiによって観測された」というメイルとともにダンに伝えておきました。すると、その10分後の21時28分に今度は嬬恋の小嶋正氏から「板垣さんの新星状天体を、TOCP掲載後に135mmレンズで9月27日18時41分に撮影した捜索画像を調査して、その出現を確認しました。光度は9.5等でした。画像を添付します」という報告が届きます。小嶋氏の観測は、板垣氏の発見より36分ほど早い時刻に行われた発見前の観測でした。『もったいないなぁ……』と思いながら、21時44分に小嶋氏の発見前の観測をダンに連絡しておきました。
板垣氏からの発見報告がないまま『今夜は自宅で仕事がある。まぁ、もう報告してあるから、しばらく待っていてもいいか』と思い、22時10分にオフィスを出ました。走行中に板垣氏から22時12分に「今、送りました」と連絡が入ります。『わかりました。これから処理します』と答え、洲本のイオンでもう一度買い物して自宅に帰ってきました。板垣氏の報告は、22時07分に届いていました。そこには「遅くなりすみません。光度変化の観測に夢中になっていました。9月27日19時18分に180mmレンズを装着したCCDカメラで、いて座を撮影した捜索画像上に9.9等の新星を発見しました。9月20日にこの星域を捜索したときには、まだ出現していませんでした」という報告がありました。すると、水戸の櫻井幸夫氏から22時44分に「PNを発見した」という連絡が携帯にあります。『もういっぱい発見ともいえないような報告がTOCPに入っていますが、送ってください』とお願いしました。櫻井氏の報告を待ちましたが1時間が過ぎても報告がありません。そこで、23時48分に氏に報告を送るように再度、頼みました。
櫻井氏から報告が届いたのは9月28日00時01分のことです。そこには「9月27日18時53分に180mmレンズで撮影した捜索画像上に、9.7等の新星状天体を見つけました。極限等級が10.5等級の2枚の画像に写っています。9月20日19時04分に撮影した画像上には確認できません」と報告されていました。氏の発見も、板垣氏の発見時刻より25分ほど早い発見前の観測でした。とにかく、これですべての報告が届きました。そこで、00時12分にダンに『小嶋氏と櫻井氏の発見前の観測、板垣氏の発見をまとめた正式の発見報告』を送りました。板垣氏からは、03時42分に報告を受け取ったという確認メイルが届きます。
超新星 in NGC 3430=PSN J10520833+3256394
新星発見から半日も経たない9月28日06時03分に、山形の板垣公一氏から「NGC 3430に超新星を発見した」という報告が届きます。そこには「50cm f/6.0反射望遠鏡で2015年9月28日04時27分にこじし座にあるNGC 3430を撮影した捜索画像上に、17.0等の超新星状天体を発見しました。発見後、6枚の画像上にその出現を確認しました。その間に移動はありません。明け方の低空で、直前の捜索画像はありませんが、過去の画像にはその姿はありません。なお超新星は、銀河核から西に40″、南に22″離れた位置に出現しています」という報告がありました。メイルの最後には「頭が痛いので寝ます」と書かれてありました。『板垣さん。健康には十分注意してください』。報告にある発見画像を見ると、超新星は母銀河から離れた位置に小さく輝いていました。板垣氏のこの発見は、06時38分にダンに送付しました。夜が明けた09時09分に板垣氏から「おはようございます。今、眼が覚めました。もう大丈夫です。拝見しました」と報告確認のメイルが届きました。
それから2日後、9月30日04時52分に香取の野口敏秀氏から「板垣さん発見のPSNを9月30日03時42分に観測しました。光度は16.3等でした」という観測が届きます。氏の観測は、05時09分にダンに送っておきました。板垣氏からは07時50分に「おはようございます。夜明け前の低空での観測をありがとうございます。私も今朝方、狙ってみましたが雲があって無理でした」というお礼状が野口氏に送られていました。
なお、この超新星は、12月19日00時00分到着のATEL #8428にパロマーの観測グループが12月7日に5m望遠鏡でスペクトル確認を行い、IIb型の超新星出現であったことが報告されました。また、同グループによって独立発見されていたことも伝えられました。
いて座新星 2015 No.3(続き)
板垣氏のPSNの発見報告から3時間ほどが経過した9月28日08時41分に、板垣氏の新星発見を伝えるCBET 4145が届きます。それによるとこの新星は、発見直後に国内外の観測者によって8等〜9等級で観測されていました。また、国内外でスペクトル確認が行われ、新星の出現であることが確認されたという報告がありました。その夜(9月30日)23時06分になって新天体発見情報No.225を発行し、報道各社に板垣氏の新星発見を伝えました。関係者に送ったメイルには『新星捜索、皆さんこんな熱心にやっているのですね。新彗星でも引っかかってくれば良いのですが……』を付け加えておきました。
それから約3か月後の2016年1月14日13時頃、ついに重い腰を上げ『いったいダンプカー1杯の砂利って……、いくらぐらいするのだろう』と思いながら瀬戸内海側の砂利業者に出向きました。恐る恐る『いくらですか』とたずねると「ダンプ1台あたり5,000円です」とのことです。『えっ、そんな安いのか』と思いながら、言われたとおり2台分の砂利を頼みました。そして、オフィスに出向くと事務員が手紙の束を持って部屋にやってきます。私の公開している住所は、法人所有の雑居ビルのものです。昨年(2015年)の秋頃からオフィスに出向くことが少なくなったため、法人・個人宛の不要な手紙を処分して、必要な手紙のみをサントピアマリーナにあるオフィスに持って来てもらっているのです。
※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。