太陽の一般磁場が2倍の強度になった

【1999年6月24日 国立天文台天文ニュース(269)】

黒点数の増減などから、11年周期で太陽活動に盛衰があることは、よく知られています。 現在は活動の極大期に向かいつつあり、2000年のうちにそのピークに達すると考えられています。 太陽の黒点には、非常に強い磁場が伴い、その強度は0.2-0.3テスラにも達します。 地球磁場の強度が0.05ミリテスラ程度であることと比べると、黒点の磁場がいかに強いかがわかります。

地球全体にダイポールで近似できる磁場があるのと同様に、太陽にも一般磁場が存在します。 しかし、その強度は0.5ミリテスラ程度で、黒点の磁場に比べればきわめて弱いものです。 しかし、長期的変化として、一般磁場の強度が、1900年以降、2倍以上になっているという観測結果が、イギリス、ラザフォード・アプルトン研究所(Rutherford Appleton Laboratory)のロックウッド(Lockwood,M.)らから発表されました。

地球上で行なう地磁気観測には、太陽磁場の影響が入り込みます。 しかし、太陽磁場の成分は、太陽の日周運動によって変化しますから、本来の地磁気成分との分離ができます。 ロックウッドらは、1868年以降のイギリスおよびオーストラリアの地磁気観測結果を整理し、そこから分離して、一般磁場によって生ずる太陽コロナの磁場の強度と、その長期的変化を求めたのです。 その結果、11年周期の変化に重なって、長期的に太陽コロナの磁場が強くなり、1964年以降では1.4倍に、1901年以降では2.3倍に増加していることがわかったのです。

一般磁場の強度が2倍になったからといって、太陽活動がすべて2倍になるわけではありません。 しかし、ある程度の活動増加に結びついていることは推測されます。 NASAが1978年以降続けている航空機に搭載したラジオメータ観測によると、11年の周期に伴って、太陽の明るさが0.15パーセントほど変化しているそうです。 太陽型の恒星で0.5パーセント程度の明るさの変化は、特に異常なことではありませんが、この種の変化が地球に何らかの影響を及ぼす可能性を否定することはできません。 だからといって、一般磁場の強度の増加が、すぐに太陽の明るさ増加につながり、最近の地球温暖化の原因になるなどと即断することはできません。 地球温暖化には、たとえば、化石燃料の大量消費で生じた二酸化炭素による温室効果が大きく作用しているからです。 太陽の一般磁場が強まった影響は、かなり長い目で見なければ判断できないでしょう。

参照  Lockwood, M. et al., Nature 399, p.437-439(1999).
Parker, E. N., Nature 399, p.416-417(1999).