超巨大望遠鏡への夢

【1999年7月1日 国立天文台天文ニュース(270)】

ハワイに「すばる」が建設され、日本の天文学も、口径8−10メートルの望遠鏡をもつ世界の第一線の仲間入りをしました。 しかし、大口径望遠鏡に対する天文学者の期待は止まるところを知らず、中間段階を飛び越して、口径25、50あるいは100メートルの構想が打ち出され初めています。 系外惑星に生命の痕跡を探す、遥かに遠い銀河をすぐそばにあるかのように観測するなどのためには、少なくともこの程度の望遠鏡が必要というのです。

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マウナケア山頂、標高4,130mの高地に作られたすばる望遠鏡ドームと観測制御棟全景

6月はじめ、南スエーデンにある中世の城郭、ベッカスコーグ城で、「最大口径望遠鏡」のワークショップ(研究会)が開かれ、約70人の天文学者、技術者が集まり、巨大望遠鏡建設の構想、問題点などについての討論がなされました。 具体的な建設計画があるのではなく、画期的なアイデアが出されたのでもありませんが、さまざまな構想が述べられました。 これまでの例から、口径が2倍になるごとに望遠鏡の建設費は6倍になるといわれます。 すると、100メートル望遠鏡を建設するには少なくとも200−300億ドルが必要です。 それを実現可能な10億ドル以下に抑えるにはどうすればいいか、というのが議論の流れでした。

たくさんの鏡材を結合する方式の提案が多かったのに対し、「すばる」の鏡をつくったコーニング社は、50メートルの一枚鏡が可能であることを示唆しました。 ただし、その運搬には、「飛行船が必要となる」といいます。

アリゾナ州ツーソンの国立光学天文台(National Optical Astronomy Observatories)の計画は、高度角を55度に固定して回転台に載せる口径30メートルの望遠鏡です。 同天文台のセブリング(Sebring,T.)は、これに2億5000万ドル程度の建設費を考えています。 また、ヨーロッパ南天天文台(ESO)は口径100メートルの圧倒的大望遠鏡(Overwhelmingly Large Telescope;OWL)を提案しました。 これは2.3メートルの鏡材2000個を結合するマルチミラー方式で、経費節減のため鏡材がすべて同一の球面鏡とし、球面収差は何枚かの補正鏡で補正するという考えです。 可動部分が1万7000トン、全体が巨大なピラミッドくらいの大きさになります。 ESOのジルモッチ(Gilmozzi,R.)は、「2002年までに設計を完了し、建設に9億ドルを考えている。 これはすべて現在の技術で可能で、20年で建設できる」と述べています。 ESOは最近OWL建設のための事務所を置いたということです。

しかし、この種の超巨大望遠鏡を実際に建設するには、あらゆる面での国際協力が欠かせません。 また、波面補償光学の大きな進歩も必要と考えられます。 将来、100メートル望遠鏡が建設される日がほんとうにくるのでしょうか。

参照 Schilling,Govert Science 284,p.1913-1914(1999).