高速度雲が銀河形成の素材か
【1999年7月29日 国立天文台・天文ニュース(277)】
過去に、宇宙の初期は濃密で高温の状態にありました。膨張するにつれて宇宙はしだいに冷え、原始プラズマから水素原子が生まれ出す状態になります。 さらに宇宙が膨張して、そこから銀河が誕生するのですが、その過程はよくわかっていません。 それに対し、たくさんの理論が提案され、数多くのコンピュータ・シミュレーションがおこなわれています。 銀河の形成には、暗黒物質が大きな役割を果たすと考えられていますが、その温度が高いか、低いかで、銀河形成の筋道は大きく変わってしまうのです。
宇宙が冷えて水素原子が生まれてからは、暗黒物質の大部分は、いくつもの小さな塊になり、その後時間が経つにつれて、これらの塊は重力によって集まり、しだいに大きく成長し、最終的に銀河になるというのが現在の大筋の考え方です。 しかし、上に述べたように、そのプロセスが確定しているわけではありません。
これに対し、カリフォルニア大学のブリッツ(Blitz,Leo)らのグループは、高速度雲がわれわれ銀河系を生み出した素材であると主張し、これが銀河形成を解明する手がかりになると考えています。
高速度雲とは、1963年にミュラー(Muller,C.A.)、オールト(Oort,J.H.)らが発見した中性水素のガス雲で、銀河系の周囲で、銀河系から大きく離れたところにいくつも存在します。 代表的なもので直径25キロパーセク、太陽質量の3000万倍の水素、3億倍の暗黒物質を含み、銀河回転で生ずる速度よりも毎秒数100キロメートル以上のずれがある特徴があります。 高速度雲全体の質量は、太陽の100億倍にも達すると考えられています。
ブリッツらは、これらの高速度雲が銀河系起源のものではなく、銀河系を含む局部銀河群全体に対し、その外部から落ち込んできたもので、銀河系を作った素材であろうと推定しています。 局部銀河群進化のシミュレーションでは、外部から落下するガス雲は、主要な高速度雲がかたまって存在する二、三の位置に集まり、全体としての運動が一致することが確かめられています。 そのほかにも、高速度雲がときどき落ち込むことで銀河系円盤の化学進化が説明できるなど、この考え方はいくつかの現象を説明するのに都合がよく、支持される理由になっています。
これからは、この考え方を検証するために、巨大な地上望遠鏡、宇宙望遠鏡などを使って、これら高速度雲を詳細に調べる時代になるでしょう。
参照 Blitz,Leo et al., The Astrophysical Journal 514,p.818-843(1999).