高速で運動する銀河系内の巨大なガス塊

【1999年11月26日 Space Science Update (NASA, STScI)

私たちの銀河系の縁に位置し、高速で運動する巨大ガス塊の存在は古く知られていたが、ハッブル宇宙望遠鏡をはじめとする観測機器の進歩により、こうしたガス塊のある場所やその役割がしだいに明らかになってきた。このガス塊は私たちの銀河の進化に重要な役割を演じていると考えられる。

HST image

私たちの銀河系を真横から見たイメージ。電波観測によりその存在が明らかになった巨大ガス塊は左上の楕円で示されている。銀河面は画面中央横方向であり、白〜紫色の輝点は恒星の分布を表している。

今から約35年前、おおくの銀河系内物質の運動に対して高速で運動するガス塊の存在が確認されたときには、このガス塊が視線上のどこにあるのかを正確に判断することができなかった。しかし近年の観測技術の向上により、このガス塊が地球から約2万光年の銀河系内にあり、その場所は恒星がたくさんある銀河面付近からかなり離れた領域にあることがわかった。

ハッブル宇宙望遠鏡などの観測により、こうした高速で運動するガス塊は他にもあり、いずれも銀河面から1万〜4万光年はなれた場所に存在することが明らかになってきた。これらのガス塊は銀河面付近の星形成領域から充分はなれた場所に位置するため、ガス塊内部ではあまり星が生まれず、したがってガス中に含まれる重元素の量も比較的少ないと考えられる。

星がその一生を終えると、宇宙空間には星の核融合反応で生成された重元素が放出される。したがって、星形成領域の星間ガス中の重元素の含有量は、時間が経つにつれて増えていくことになる。つまり、ある星間ガスの中で誕生した新しい星と古い星とを比べた場合、新しい星ほどその内部に含まれる重元素の量はしだいに多くなっていくはずである。しかし実際に銀河面付近の恒星を調べてみると、どの年齢の星も重元素の量はほぼ一定という結果が得られるのである。

この問題はこれまで謎とされてきたが、銀河面から離れたガス塊が、銀河面付近の星形成領域ガス塊に、より重元素の少ないガスを供給していると考えればうまく説明できるという。

<参照>
STScI-PRC99-46 November 24 , 1999