チャンドラがとらえた融合する銀河団

【2000年3月3日 Chandra X-ray Observatory Press Release

チャンドラX線宇宙望遠鏡が、エイベル2142(Abell 2142)と呼ばれる遠方銀河団をとらえた。この銀河団は2つの銀河団同士の衝突・合体によって形成されたものと考えられている。衝突合体過程の後期段階にある銀河団がX線で観測され、高温ガス雲の分布などがこれほど詳細にとらえられたのは今回が初めてである。

 

X線でみたエイベル2142(Abell 2142)の中心部。直径600万光年もの領域の中に数百もの銀河や大量のガス雲を含む巨大な銀河団である。このガスはさらに千個以上もの銀河を作りだすことができるほどの大質量を持っている。

 

エイベル2142の可視光線画像を白黒反転させたものに、X線画像のコントアマップを重ねたもの。可視光では、2つの銀河団の中心核(矢印)がみえており、この銀河団がこれら2つの銀河団による衝突合体過程によって形成されたものであることがわかる。X線では左下の核を中心に輝いている。

エイベル2142は数百の小銀河を含む遠方銀河団の一つで、宇宙形成の初期に形成された宇宙でも有数の大質量天体として知られている。この銀河団を可視光で観測すると、2つの中心核がみえる。じつはこの銀河団は2つの銀河団が接近し、衝突合体過程によってできたと考えられているのである。この過程は数十億年かけて行われ、この銀河団は既にその後期段階にあるという。衝突合体によって生成されたエネルギーは、銀河団中のガスを1億度もの温度に引き上げている。

これまでこの天体はローサットX線観測衛星などによって捉えられていたが、その詳細構造はよくわかっていなかった。チャンドラの観測により、それよりはるかに詳細な温度、密度、圧力分布図が得られた。衝突合体過程の後期段階にある銀河団の詳細構造が明らかになったのは今回がはじめてであるという。

この高温ガスは、中心付近では約5千万度と比較的低温である。しかしその周辺部のガスは7千万度程度で、さらにそのまわりには1億度の希薄ガスが銀河団を覆っている。圧力や密度の空間分布はきわめて大きな勾配をもっており、衝突合体過程の物理的な解明にむけて研究が進んでいる。

コンピュータによる衝突シミュレーションによると、その前半期には銀河団内部にショック波が形成されるという。しかしながら、今回の観測結果ではそのような構造はみられない。このことからも、この銀河団は過程の後半期にあると考えられる。銀河団は約十億年の間に数回の接近を繰り返し、すでに融合過程がかなり進行してしまっていると推測できるのである。近い将来、この銀河団は完全に一つに合体した天体となるであろう。

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Chandra X-ray Observatory Center Press Room, RELEASE: 00-046