誰も気付かなかった彗星
【2000年5月25日 国立天文台・ニュース(351)】
SOHOのデータを解析したところ、1997年に、誰にも気付かれずにひとつの彗星が通過していったことが明らかになりました。
SOHOは、地球と太陽を結ぶ直線上のラグランジュ点に置かれた太陽観測宇宙天文台(Solar and Heliospheric Observatory)で、これに搭載されたコロナグラフは、すでに太陽に接近したいくつもの彗星を発見しています。 ただし今回の報告はこのコロナグラフによるものではなく、別の搭載機器の太陽風異方性観測装置(Solar Wind Anisotropies;SWAN)による観測結果です。
SWANは本来太陽風に関係して生ずる水素原子のライマン・アルファ線を観測する装置です。 しかし、彗星が放出する水も分解して水素を生じ、コマの周囲でライマン・アルファ線を放射しますから、これも当然観測にかかります。 しかし、彗星を拾い出す立場から見ると、このデータは分解能が悪く、非常に多くのノイズに埋もれていて、特別のデータ処理をしないと彗星の存在がわかりません。 この処理をしても、検出できる彗星は、せいぜい12等くらいのものまでということです。
フィンランド気象研究所(Finnish Meteorological Institute)のマッキーネン(Makinen, J.T.T.)たちは、SOHO打ち上げの1995年12月から1998年に数ヶ月機能を失うまでの期間のSWANによる観測データのすべてを上記の処理によって解析し、そこから18個の彗星を検出しました。 そこには、ヘール・ボップ彗星、百武彗星などの明るい彗星はもちろん含まれていましたが、1997年に黄道の南極付近を通過した彗星だけはまったく観測記録がなく、新彗星としてC/1997 K2の認識符号がつけられました。 この彗星は7月26日に1.546天文単位の距離で近日点を通過した長周期の彗星で、観測から求めた水の放出量から、多分、実視等級は11等ぐらいであったと推定されます。 この彗星は、誰にも発見されず、ひそやかに内部太陽系を通り抜けていったのです。
地球接近小惑星を検出するため、LINEAR, LONEOS, Space Watchなど、いくつものプロジェクトが稼働し、非常に暗い彗星をつぎつぎに発見しています。 しかし、これらの観測は黄道面付近に重点が置かれ、黄道から離れたところでは、かなり明るい彗星でも見逃されている場合があります。 C/1997 K2もそのひとつです。アマチュアが彗星発見を志すなら、黄道面から遠く離れたところが穴場といえましょう。
参照 | Makinen,J.T.T. et al., Nature 405, p.321-322(2000). |
A'Hearn,M.F., Nature 405, p.285-287(2000). |
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