ブラックホールは銀河とともに進化
【2000年6月8日 国立天文台・ニュース(354)】
銀河の中心部に存在するブラックホールは、銀河の進化とともに成長したものである。 ハッブル宇宙望遠鏡の観測で、それが確認された。 ニューヨーク州ロチェスターで開催された第196回アメリカ天文学会の講演会で、このような発表がありました。
銀河の中心部には、しばしばブラックホールが存在します。 ブラックホールを直接に見ることはできませんが、銀河内の恒星やガスの回転速度を観測することなどで、間接的にその存在がわかるのです。 太陽を回る惑星の回転速度から太陽の質量がわかるように、銀河中心を回る恒星の回転速度から、中心部の質量が推定できるからです。
テキサス大学のコーメンデイ(Kormendy, J)たちは、ブラックホールと銀河の関係を調査し、ブラックホールの質量は銀河の誕生以前に決まっているのではなく、銀河内の恒星やガスを吸収してブラックホールも成長し、銀河の形成過程によって決まることがわかったと述べました。 つまり、小さい銀河のブラックホールは、吸収する恒星やガスの量が不十分のため栄養不良で大きくなれず、一方、大きな銀河の中心部にあるブラックホールは、落ち込んでくる多量のガスをむさぼり食って、巨大なものに成長するというのです。 その結果、銀河系のように中心部のふくらみ(バルジ)の小さい銀河は、中心部のブラックホールも小さく、せいぜい太陽質量の数100万倍程度であるのに対し、巨大な楕円銀河には太陽質量のの10億倍ものブラックホールが存在することになります。 バルジがない円板型銀河には、ブラックホールはないか、あっても検出限界以下ということです。
このような関係は、以前から推測されてはいました。 ハッブル宇宙望遠鏡には、強力な「ブラックホール探査分光器(Black hole hunting spectrograph)」が搭載されています。 これによって30以上の銀河の調査がおこなわれたことから、今回、銀河とブラックホールの関係が具体的に明らかにされたといっていいでしょう。 結論にまだ検討の余地はあるそうですが、巨大ブラックホールは、母銀河の中心部の恒星やガスの質量の、驚くほど正確に0.2パーセントを捕らえて進化しているということです。 ブラックホールというと、一般の方には何かわけのわからない化け物のように思われている一面もありますが、科学的には、こうして、しだいに正体がはっきりしてきているのです。
参照 NASA RELEASE 00-88(June 5,2000)