巨大な惑星間空間衝撃波が地球を直撃
【2000年6月9日 国立天文台・ニュース(355)】
6月6日19時42分(世界時)、NASAの太陽観測宇宙天文台ソーホー(SOHO)は、太陽を包み込むコロナを全て吹き飛ばした、巨大なコロナ質量放出(CME)、「フルハローCME」を観測しました。 そして、放出された物質の速度はおよそ秒速900kmであり、48時間ほどで地球へ到達することが発表されました。 同日、アメリカ大気海洋局宇宙環境センターも、この巨大なCMEに伴い6月7日から1週間程の間に、地球磁気嵐が活発化するという注意報を発表し、同局が定義している磁気嵐レベル(G1;弱〜G5;強)で、衛星利用ナビゲーション・システム(GPS)などに影響を及ぼす、レベルG3に達するという予報を出しました。 コロナ質量放出(CME)とは、100億トンの太陽コロナのプラズマ・ガスを秒速2千kmという超音速で吹き飛ばす現象のことで、1〜2日で地球へ到達します。 地球は強力な地球磁場(赤道付近で約0.5ガウス)で覆われているので、CMEの衝撃を十分に和らげてくれるのですが、今回のような巨大なCMEは、地球の電離圏に強力な電流を生じさせ、電気機器の誤作動、GPSなどの衛星の誤作動、電波障害、オーロラ活動の活発化を引き起こします。 6月8日8時42分(世界時)、地球から太陽側へ150万kmの宇宙空間に浮かぶ太陽物質探査衛星(ACE)によって、惑星間空間衝撃波の到達が観測されました。 この衝撃波の到達直後の6月8日9時10分(世界時)には、活発な地磁気擾乱が茨城県にある柿岡地磁気観測所で観測されています。 現在も太陽風速度は、秒速700kmと高速であるので、地磁気活動は今後もやや活発になる可能性があります。
太陽は11年で、その活動度が極大と極小を行き来する太陽活動周期を持っています。 太陽活動極大期の間は、「太陽フレア」と呼ばれる爆発的なエネルギーの解放現象や「コロナ質量放出(CME)」が頻繁に発生し、よく知られているように「黒点」も激増します。 一方、太陽風(Solar Wind)とは、太陽を取り巻く太陽コロナから定常的に吹き出している電子と陽子から成るプラズマの風です。 地球軌道近辺で観測される典型的な太陽風の速度の動径成分は、秒速300kmから800kmの超音速流です。 この超音速風はほとんど衰えることなく、太陽系の果てまで吹き渡っていることが探査機などの観測により明らかになっています。 しかし、太陽風は定常的であるといっても一様流ではなく、しばしば劇的な変化を引き起こします。 その最たる例が、「コロナ質量放出(CME)」と呼ばれる活動現象のときに発生する非定常流なのです。 特に今回のCMEでは、6日13時39分と14時25分の特大のフレア現象に伴い発生したフルハローCMEでした。 CMEは単独でも発生することが確認されていますが、フレアとCMEが密接に関係している今回のような場合もあり、研究者達の注目を集めています。 また、近年、「宇宙天気予報」と呼ばれる新たな分野が脚光を浴びています。 宇宙開発や次世代の宇宙産業として期待される宇宙観光旅行にしても、宇宙空間における人間活動の安全評価として、毎日の「宇宙天気予報」が欠かせなくなる時代がやってくるのはそう遠くないことでしょう。 前回の太陽活動極大期は1989年であり、11年経った今年は極大期に当たります。 今後も活発な太陽現象から目が離せません。
参照
アメリカ航空宇宙局科学ニュース
アメリカ大気海洋局宇宙環境センター
通信総合研究所平磯宇宙環境センター 太陽地球環境予報