宇宙は昔熱かった VLTによる観測で確認

【2000年12月22日 ESO Press Release 27/00 (2000.12.20)

ヨーロッパ南天天文台 (ESO)・パラナル観測所の8.2メートル望遠鏡「VLT KUEYEN」の観測により、宇宙は昔、現在よりも熱かったということが初めて確認された。これは宇宙が超高温・超高圧の小さな火の玉から始まったとする「ビッグバン理論」により予言されていたもので、ビッグバン理論の信憑性がまた高まったことになる。

宇宙がビッグバンにより始まったとするならば、その熱は今も完全には冷え切らずに宇宙空間を満たしているはずであり、そして全天から等方的に観測されるマイクロ波宇宙背景放射 (Cosmic Microwave Background Radiation; CMBR) として観測されるはずである。1964年にアメリカのベル電話研究所のArno A. Penzias氏とRobert W. Wilson氏はこのCMBRを偶然発見し、この業績により1978年にノーベル賞を受賞している。

地球にて観測されるCMBRは、約2.7ケルビン (セ氏マイナス270.4度) である。だが、昔の宇宙ではこのCMBRはもっと高温だったはずである。特に、初期の宇宙では、CMBRの温度は原子のエネルギー状態に影響を与えるに足るほどの温度であったと考えられる。

今回研究チームは遠方のクエーサー「PKS 1232+0815」(赤方偏移 z = 2.34: 宇宙年齢が現在の20%程度であった頃に対応) をVLT KUEYENに取り付けた「紫外線-可視光エシェル分光器 (Ultra-violet and Visual Echelle Spectrograph; UVES)」により観測した。そして、そのスペクトルに、高温のCMBRの影響で高エネルギー状態になった銀河間ガスの影響によると考えられる吸収線を発見したのである。

さらに、その結果から推定される当時のCMBRの温度は6ケルビン以上14ケルビン以下であり、これはビッグバンモデルが予測する温度 (9ケルビン) とよく整合する。

なお、今回チームが用いた手法は、30年以上前から考えられてきた手法であった。観測装置の能力不足から、これまでは実現できなかったが、8メートル級望遠鏡の登場によりついに実現された。