放射性元素による宇宙年令測定

【2001年2月22日 国立天文台天文ニュース (419)

放射性同位元素を使って年代決定ができることは皆さんご存じでしょう。星にも同じ手法を適用して、ある古い星の年令が125億年と求められました。これは宇宙の年令に近いものと思われます。

放射性同位元素は環境条件に影響されず、いつでも一定の割合で崩壊して、他の元素に変わります。たとえば炭素14は半減期の5730年ごとにその量が半分に減ります。他に安定な元素があり、始めに炭素14との相対存在量が解っていたなら、現在の相対存在量を測定することで、それまでの経過時間を知ることができます。

パリ・ムードン天文台のケイレル (Cayrel,R.) たちは、ヨーロッパ南天天文台 (ESO)8.2メートル望遠鏡VLTを使って、金属欠乏星の高分散スペクトル観測を続けていました。そこでたまたま観測した「くじら座」の11.7等星CS31082-001に、ウラニウム238イオンによる385.96ナノメートルの吸収線があることを発見しました。地球外でウラニウムが検出されたのはこれが初めてのことです。ウラニウム238は半減期が44.7億年で、100億年程度の年代決定にちょうど都合のいい元素なのです。

CS31082-001は銀河系ハロー部にある金属欠乏星で、鉄の存在比は太陽の800分の1しかない種族IIの非常に古い星です。しかし銀河系の歴史のごく初期に起きた超新星爆発で生じた中性子を取り込む「中性子捕獲」という現象を通して、質量数の大きい元素の量が異常に増え、放射性元素のトリウム232やウラニウム238が検出できるレベルにまで増加しているのです。トリウム232はこれまでにも検出され、年代測定にも使われましたが、半減期が140.5億年とやや長すぎて、年令の決定精度が悪いのです。しかし、ウラニウムとトリウムの両方が検出されると、その相対存在比から、星の大気モデルや、初期の存在比の影響をあまり受けない高精度の年代決定が可能になってきます。

高分散スペクトルの解析から得られた、ウラニウムとトリウムの存在比、安定元素であるオスミウムやイリジウムとウラニウムの存在比などから得られた年代をすべて総合して、CS31082-001の年令は125億年±33億年と決定されました。この星が銀河系創生とほとんど同時に誕生したと推定されるところから、この数値は銀河系の年令の下限と解釈されます。もし、スペクトルの振動子強度などの原子に関するパラメーターの精度が改善されれば、上記の誤差範囲はもっと小さくなるはずです。

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