[HST] 巨大な星の赤ちゃんが揺りかごを揺らす

【2001年3月29日 STScI-PRC-01-11 (2001.03.28)

HSTがとらえたN83B (左) とDEM22d (右)

2000年5月、HSTの広視野/惑星カメラ2による撮像。3つの狭域フィルターで撮影された画像の3色合成であり、フィルターと色チャンネルの対応は、電離水素のHα光をとらえるもの (赤チャンネル)、電離酸素をとらえるもの (緑チャンネル)、電離水素のHβ光をとらえるもの (青チャンネル) である。視野角は縦66秒角 (1秒角=3600分の1度)・横133秒角であり、横55光年・縦108光年に対応する。

Image credit: NASA, ESA, Mohammad Heydari-Malayeri (Observatoire de Paris, France)

この画像は、ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) によりとらえられた大マゼラン雲の一部だ。大マゼラン雲は私たちの銀河系の伴銀河のひとつで、銀河系からおよそ16万5000光年しか離れておらず、南半球であれば肉眼で容易に見ることができる。

画像の左に見えるのは、直径25光年ほどのコンパクトな球状分子雲N83B (NGC1748としても知られる) である。これは、幼い巨星たちが、その揺りかごである厚い分子雲の殻を吹き飛ばして外に姿を表したばかりのようすである。この領域には20個ほどの幼い巨星が見られる。中央に見える一見ごく普通の恒星は、私たちの太陽の約30倍の質量を持ち、約20万倍も明るい。

厚い分子雲の内部で誕生した恒星は、高速の恒星風を吹き出して、周囲の分子雲を吹き飛ばし始め、やがては分子雲の殻を破って外に姿を表す。最終的には分子雲はすっかり吹き飛ばされてしまい、星団だけが残る。巨星の場合、誕生のプロセスは急速に進むので、生まれたばかりの恒星を観測するチャンスは多くは無い。このN83Bの場合、その殻が破れたのはわずか3万年ほど前と考えられる。私たちの銀河系の内においては、オリオン大星雲がこのN83Bによく似た領域だ。

N83Bの上部の最も明るい部分は、直径わずか2光年ほどであるが、小さい領域がひじょうに明るく輝いていることから、この領域にはとても若い巨星が潜んでいることがうかがい知れる。ここには球状分子雲内で最も高温の恒星があり、その質量は太陽の約45倍である。この明るい部分の下部には弧状の構造が見えるが、これは恒星からの高速の恒星風に押されたガスが形作るものと考えられる。

この明るい部分に潜む恒星、およびその近辺の恒星は、球状分子雲の中央にある恒星よりも若いが、このことは、まず中央の恒星が誕生し、その恒星から吹き出す恒星風が分子雲を掻きまわしたことが、他の恒星が誕生する引きがねとなったことを示唆している。このような連鎖反応的な恒星の誕生は、普遍的な現象であることがわかってきている。

N83Bの右にのっぺりと広がる大きな星雲は、DEM22dと呼ばれている。DEM22dの手前には冷たいガスとチリの層があり、星雲に黒い筋を走らせている。