[HST] 100億光年彼方の超新星発見 暗黒エネルギーの存在を強く示唆
【2001年4月4日】
ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) が撮影した深宇宙画像から、観測史上最遠となる超新星が発見された。また、この超新星の分析から、「暗黒エネルギー」の存在に関する重要な示唆が得られた。
ハッブル北ディープ・フィールドに発見された超新星SN1997ff
画像右下は、1997年に撮影された画像から1995年に撮影された画像を引き算したもので、明るさの変化が無い部分はフラットになり、1997年の画像の方が明るかった部分が明るくなっている。超新星の存在がはっきりとわかる。
Credit: NASA and A. Riess (STScI)
今回の超新星 (SN1997ff) は、1997年にHSTが「おおくま座」の一角を超長時間露光で撮像した有名な深宇宙画像「ハッブル北ディープ・フィールド」から発見された。距離は約100億光年で、これまで知られていた最遠のものよりも1.5倍も遠い。
超新星は、巨星がその寿命を終える際の大爆発現象により発せられた光である。超新星にはいくつかの種類があるが、今回発見されたものはIa型超新星である。このIa型超新星は、絶対光度がほぼ均一という重要な特徴を持っている。つまり、見かけ上明るいIa超新星は近くにあり、見かけ上暗いIa型超新星は遠くにあるというわけだ。すなわち、Ia型超新星の明るさを分析することにより、その超新星までの距離がわかる。
それとは別に、天体の赤方偏移値から、その天体の後退速度がわかる。したがって宇宙の複数の年代で生じたIa型超新星と、その超新星の母天体の赤方偏移とを総合的に分析することにより、宇宙の膨張速度の変化を検証することが可能となる。
1998年に2つの研究チームが複数の遠方のIa型超新星を分析した結果、宇宙の膨張速度は、宇宙年齢が現在の約半分であったころからは、増しつつあるということがわかった。そして今回発見されたIa型超新星の分析から、宇宙の膨張速度は、初期宇宙においては減速しつつあったらしいということがわかった。
これらのことが示唆するのは、アインシュタインがその一般相対性理論に導入し、その後に撤回した「宇宙定数 (cosmological constant)」が、実際に存在するらしいということである。
重力は、宇宙の膨張速度を減速させようとする引力である。宇宙定数の存在は、これとは逆に膨張速度を増やそうとするなんらかの斥力が存在するということを意味する。その斥力のことは「暗黒エネルギー (dark energy)」と呼ばれている。
もっとも、その暗黒エネルギーの正体が何であるかについては、よくわかっていない。「量子的真空のエネルギー (energy of the quantum vacuum)」といわれるものかもしれれないし、まったく新しく予想外のものであるかもしれない。
研究チームの一員であり、シカゴ大学の天体物理学者であるMichael Turner氏は、こう語る。
「暗黒エネルギーが何であるかはわかっていないが、ひとつ確実に言えることがある。それは、暗黒エネルギーの研究から、宇宙に存在するあらゆる力・粒子をひとつの理論のもとに統合しようという人類の探求のために、ひじょうに重要なカギが得られるであろうということだ。そして、そのために必要なのは、望遠鏡なのだ。粒子加速器ではない。」