長大なジェットを噴き出しているクェーサー
【2002年2月14日 国立天文台・天文ニュース (525)】
X線観測天文台チャンドラの観測によって、クェーサーPKS1127-145は100万光年に達する大規模なX線のジェットを噴き出していること、またこのクェーサーと地球との間にある銀河は、銀河系に比べて酸素の量が5分の1しかないことがわかりました。
PKS1127-145は「コップ座」にあるクェーサーで、数10億光年もの遠方にあります。このクェーサーから、少なくとも100万光年の長さをもつ長大なX線のジェットが噴き出ていることが、チャンドラのX線観測によって明らかにされました。このジェットはおよそ100億年前にクエーサー中心にある巨大質量ブラックホール周辺で起こった大爆発によって生じたと推定されます。ブラックホールがジェットにエネルギーを供給しているのでしょう。このジェットに沿ってX線放射にはっきりした強弱があり、ジェットの噴出が間欠的であったことを示しています。これはその母銀河が他の銀河と合体したことによる影響ではないかと想像されています。いずれにせよ、これほど規模の大きいジェットは、過去にほとんど知られていないものでした。
このクェーサーを観測して得られたもうひとつの事実は、中間に存在する銀河に関するものです。X線写真を撮影するとき、われわれはX線源とフィルムの間に体を置きます。それで骨の状態などが撮影できます。健康診断などで経験された方も多いことでしょう。今回の観測では、X線源であるクェーサーとわれわれの間に銀河がありますから、われわれは銀河のX線写真を見る形になります。銀河の中にあるさまざまな原子はX線の一部を吸収しますから、銀河を通してクェーサーはX線でやや暗く見えているはずです。その吸収の程度から、われわれの銀河系に比べて、中間にある銀河は酸素が5分の1しかないことがわかったのです。
酸素、ケイ素などの原子は、超新星爆発で空間にまき散らされます。したがって、時間の経過につれて銀河内の酸素の量はしだいに増加します。さまざまな距離の、言い換えればさまざまな時代の銀河をこのようにして調査すれば、時間の経過にともなって酸素量の増加速度がわかるはずです。 チャンドラは1999年にスペースシャトルから放出し、NASAが運用しているX線観測衛星です。またPKSはオーストラリアのパークス(Perkes)64メートル電波望遠鏡によって作られた電波源カタログの名前です。