空の明るさの11年周期変動を発見
【2002年5月1日 国立天文台・天文ニュース(546)】
国立天文台のコロナグラフを使った長期間の観測から、太陽黒点の数と共に、空の明るさも11年の周期で変動していることがわかりました。
コロナグラフとは、太陽のまわりに広がった微かなコロナを観測するための特殊な望遠鏡です。金属の円盤をマスクにして太陽本体を隠し、日食でなくても微弱なコロナを観測できるように工夫された装置です。国立天文台・乗鞍コロナ観測所では、このコロナグラフを使って、1951年から現在まで太陽コロナの明るさを観測してきました。コロナの明るさを正確に求めるため、背景の空の明るさも同時に測り、これを差し引いています。ですから、コロナだけでなく、空の明るさも測定しているわけです。空が明るいということは、空気中にエアロゾルと呼ばれる固体・液体微粒子が多く存在し、太陽本体の光が散乱されていることを表しています。例えば、春先にはいわゆる黄砂の影響で空が明るく、微弱なコロナの観測には条件が良くありませんし、大規模な火山噴火があった後も空は明るくなります。しかし、これらの変動を差し引いて見ても、まだ原因の分からない変動成分が残っています。
櫻井隆(さくらいたかし)国立天文台教授・乗鞍コロナ観測所長は、1951年から1997年までの47年分の空の明るさのデータを解析してみました。すると、太陽黒点数の増減の周期に一致する、11年の周期で変動していることがわかったのです。空が一番暗い、いいかえれば地球大気が透明な時期は、黒点の少ない活動極小期に対応し、逆に空が一番明るいのは、黒点の多い活動極大期の、少し後に起こることがわかりました。明るさの変動の幅は2割ほどですが、コロナグラフで測定しているのは太陽のすぐ近くの空の明るさで、太陽から遠く離れた青空の明るさは、これほどは変化しないと考えられます。
なぜ、太陽黒点の数が地球の空の明るさに影響を与えるのでしょう? 黒点の数が多い時には、太陽の活動が活発であるため、太陽の放射する紫外線も強くなります。紫外線は地球の上層大気での化学反応を促進させ、その結果、雨粒の核となるようなエアロゾルを増加させる働きがあるのかもしれません。仮説はいろいろありますが、はっきりした原因は、これからの研究で明らかになるでしょう。
これまでにも、太陽黒点の11年の周期に同期して、気温や雨量などの気象要素が変動するといわれてきました。しかしどれも、物理的な因果関係が明確に解き明かされたわけではなく、周期が11年で一致するという、状況証拠でしかありませんでした。この点は今回の空の明るさの変動についても同じですが、地球上層大気の物理・化学との関連はより直接的で、太陽が地球環境に及ぼす影響の決定的証拠に迫った成果ということができるでしょう。