ハッブル宇宙望遠鏡のNICMOSカメラが観測を再開
【2002年6月6日 STScI Press Releases】
冷却器の不調のために観測を休止していたハッブル宇宙望遠鏡搭載のNICMOSカメラ(近赤外カメラと多天体分光器)が3年以上ぶりに観測を再開した。3月始めに取り付けられたACSカメラとともに赤外線波長での観測を行なうNICMOSカメラが復帰したことで、ハッブル宇宙望遠鏡はさらにパワーアップしそうである。
NICMOSカメラは1997年にハッブル宇宙望遠鏡に取り付けられた装置で、星形成領域や分子雲などを赤外線波長で観測してきた。NICMOSは固体の窒素がつめられた魔法瓶のようなコンテナの中で摂氏マイナス213度という超低温に冷やされていたが、4年間は持続するはずだった窒素の氷が2年弱でなくなってしまったために1999年以降観測ができなくなっていたのだ。
今年3月始めにスペースシャトル「コロンビア」の乗員によって行なわれた「サービンシング・ミッション3B」の作業でハッブルに新しいACSカメラが取り付けられたが、この時にNICMOSの冷却装置も交換されたのである。新しい冷却装置は極低温のネオンガスを装置内の冷却管に送り込む方式で、3つのタービンが毎分43万回転もの高速で回転し、カメラを摂氏マイナス230度(観測に最も適した温度)まで冷却する。
以下に今回公開された画像を紹介しよう。
(1枚目)コーン星雲 NGC2264
いっかくじゅう座にある星雲で、地球から2,500光年離れている。たくさんの星が誕生している現場である。近赤外線の波長で観測することによって、星雲の内部を見えにくくしているチリを見通して観測することができている。しかし、チリの密度があまりにも濃いため、NICMOSの能力をもってしても完全には見通すことはできていない。
画像の外にある高温で若い星からの放射を受けて、星雲は何百万年もかけてゆっくりと削られていく。また、紫外線によって暗黒雲の端が加熱され、周囲の希薄な空間へとガスを放出していく。このような現象を写し出した画像だ。画像の右のほうにある小さな黄色い点は、可視光の観測ではチリに邪魔されて見ることのできない星だ。
(2枚目)エッジオン銀河 NGC4013
我々の銀河系と似たような渦巻き銀河を真横から(エッジオンで)見た銀河、NGC4013は、5500万光年かなたのおおぐま座にある。NICMOSの観測によって、銀河の中心に位置する明るい帯状の構造が見つかった(画像中央の黄色い部分。左の明るい星は銀河系内の星で、NGC4013とは関係ない)。
この帯状の構造の大きさは約720光年で、銀河の核を取り囲むようにリング状に存在している生まれたての星の集まりを横から見ているのだろうと考えられている。チリの中に隠されているため可視光の観測では見つからなかったが、NICMOSは見事にリングを写し出してくれた。
(3枚目)超光度赤外線銀河 IRAS 19297-0406
ULIRGs(UltraLuminous InfraRed Galaxies、超光度赤外線銀河)と呼ばれるタイプの銀河で、10億光年かなたのわし座の方向にある。ULIRGとは赤外線で見ると非常に明るく光って見えるタイプの銀河のことで、将来は大きな楕円銀河へと進化すると考えられている。赤外線で明るく見えるのは、銀河にチリが大量に存在するためである。
この画像はACSカメラで撮影されたものとNICMOSカメラで撮影されたものとを合成した画像で、少なくとも4つの銀河が合体・衝突を起こしている現場をとらえたものである。中心の黄色の部分では1年に200個のペースで新しい星が誕生しているが、これは我々の銀河系の100倍に相当するペースだ。また、その黄色の部分を取り囲む青い部分は、新しい星から放射されている紫外線が光って見えているところである。