金属をほとんど含まない星が発見された
【2002年11月1日 ESO Press Release】
ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT(The Very Large Telescope)を用いて恒星の金属量の研究をしていたグループが、これまででもっとも金属量の少ない星を発見したと発表した。
観測対象となったのは南天のほうおう座にあるHE 0107-5240という恒星で、地球からの距離はおよそ3万6000光年である。スペクトルの分析の結果、HE 0107-5240に含まれる金属の量は太陽のわずか20万分の1にしかすぎないことがわかった。これまでに見つかっていた低金属量の星と比べても20分の1しかない。(なお、ここでいう金属量はそれぞれの星に含まれる水素原子の個数に対する相対量であって絶対量ではない。また、天文学では、水素とヘリウム以外の元素を総称して金属と呼ぶ。)
ビッグバン理論では、宇宙誕生の際に水素とヘリウムができ、それよりも重い元素は恒星内の核融合などで生成され、超新星爆発や恒星風によって周りにまき散らされるとされている。新たな恒星はまき散らされた元素を取り込むため、必ずいくらかの金属を含むことになる。逆にいえば、宇宙が誕生してすぐにできた恒星には金属がまったく含まれていないと考えることができ、種族IIIの恒星と言われているが、これまでの観測では見つかっていなかった。
今回の発見の元になった観測は、もともとはクエーサー探しのために行なわれたものだった。その観測の副産物として8000個ほどの低金属星の候補が見つかったので、一つずつスペクトルを撮り直し、この星の発見に至ったのである。
これまで、このような天体が見つからなかった理由の一つとして、宇宙の初期に誕生した低金属量星は大質量星なのですでに超新星爆発を起こしてなくなってしまっていることが考えられていた。しかし今回見つかった星の質量は太陽の80%であり、とても大質量星とは言えない。裏を返せば、そのような低質量の星だからこそ超新星爆発を起こさないまま観測できたということでもある。
従来の理論ではビッグバン直後に低質量の星を作るのはひじょうに難しいと思われていたが、モデルや計算を見直す必要がありそうである。今後この種の恒星を系統的に多く探すことで、初期宇宙の謎にさらに迫ることができるだろう。