近距離の恒星の発見
【2003年2月13日 国立天文台・天文ニュース(618)】
アメリカ航空宇宙局ゴダード宇宙センターのティーガルデン(B.J.Teegarden)らは、おひつじ座に今まで知られていなかった非常に近距離の恒星を発見しました。これにより、近距離恒星のリストが書き替えられることになりそうです。
この恒星にはSO025300.5+165258という符号が付けられています。もともと地球近傍にやってくる小惑星の捜索を目的としたニート(NEAT; Near Earth Asteroid Tracking)プロジェクトにより、ハワイ・マウイ島ハレアカラの口径1メートル望遠鏡で観測された膨大な恒星のデータベースから発見されました。プロジェクトが稼働を始めたのは1995年ですから、これまで得られたデータの中には、数日から1年あるいは数年間隔で撮影された同じ領域の画像があります。それらを比較すると、みかけの運動(固有運動)が大きな恒星を、まわりの恒星や銀河に対して動いている天体として取り出すことができます。みかけの動きが大きな恒星は私たちの太陽系に近い可能性が高いのです。そういった恒星を抽出したところ、1年に5.06秒角も動く星が見つかりました。1世紀の内に月のみかけ直径の4分の1ほども動いていくほどのスピードで、今まで発見されている恒星のなかでも第8位の速さです。
そこで、この恒星について詳細な観測が行われました。ニートだけではなく、別の画像データも用いて、いわゆる三角視差によって距離を求めたところ、2.3パーセク(7.5光年)という値が得られたのです。
太陽に近い恒星は、かなり正確な距離が求められています。最も近いのがケンタウルス座のプロキシマ星で、1.30パーセク(4.24光年)、ついでケンタウルス座アルファ(α)星のA, Bの2星で、1.34パーセク(4.37光年)、へびつかい座バーナード星の1.83パーセク(5.97光年)、そしてしし座ウォルフ359番星の2.39 パーセク(7.79光年)と続きます。国立天文台編纂による理科年表にも近距離恒星のリストが掲載されており、30ほどの近距離恒星が距離順に並べてあります。そちらでは連星をひとまとめにして、第1位がケンタウルス座アルファ星系(3重連星系)、第2位がバーナード星、第3位がウォルフ359番星になっています。
今回、得られた推定距離が正しいとすれば、この恒星はウォルフ359番星よりもわれわれに近い恒星ということになります。まだ測定には大きな誤差がありますが、いずれにしろ、近距離恒星の上位に新しいメンバーが加わるのは間違いありません。ちなみに、この恒星の明るさは15等足らずで、肉眼で見える恒星の明るさの1万分の1程度なので、望遠鏡を用いてもなかなか見ることはできないでしょう。