重要な新知見が目白押しとなったGRB 030329

【2003年6月19日 VSOLJニュース(106)】

宇宙の一点から高エネルギーの電磁波であるガンマ線が数十秒にわたって到来する天体現象=ガンマ線バースト。1997年にX線、可視光、電波といった他の波長で対応する天体現象=残光(afterglow)が初めて検出されて、宇宙論的な遠方、すなわち何十億光年も彼方の、大昔に起きた現象であるとわかった後も、そのメカニズムを含め、謎は多く残されてきました。

この6年間に、多くのガンマ線バーストが検出され、研究されてきました。その中から、重要なものをピックアップしてみましょう。なお、ガンマ線バーストは、バーストが検出された日付を基にして呼ばれています。2002年10月4日のものなら、GRB 021004という要領です。

GRB 970228:
初めて残光検出。残光は時間のべきで暗くなる(縦軸に等級、横軸にバーストからの経過時間の対数をとると直線上に並ぶ)。その後の解析で、爆発後数日以降、直線的な減光に重なって、増光成分が見られた。GRB 980326, GRB 990712, GRB 020405等でも同様の増光成分が見られ、超新星のような天体が付随していることが示唆される。ただし、増光成分の見られない残光も数多い。
GRB 980425:
バースト発生から3日後に、位置の誤差円内の近傍銀河で超新星1998bwが発見される。前年、北海道の佐野康男(さのやすお)氏が発見した特異なIc型超新星1997efに類似の、高速(30,000km/s程度)の膨張を示唆する特異なスペクトルが観測される。このようなスペクトルを示す超新星は、極超新星(きょくちょうしんせい)と呼ばれるようになった。ただしこの例では時間のべきで暗くなる残光は観測されず、ガンマ線バーストとの関連は必ずしも確立しなかった。ガンマ線の強度も弱く、典型的なガンマ線バーストではないとも考えられた。
GRB 990123:
ガンマ線が放出されている最中(バースト開始から48秒)に、9等級の可視閃光(flash)が観測された。15分後には15等より暗くなった。確実な閃光の観測はこの1例のみ。残光の減光率(直線の傾き)が、爆発後1日後あたりで急になる(break)ところが見られた。研究者以外の天文愛好家が初めて残光の検出に成功した。
GRB 000926:
VSNETグループの初検出(フィンランド、20等)。Sky and Telescope誌にも紹介され、残光観測が急速に広まる。
GRB 010222:
日本国内初の残光検出(VSNETグループ、19等)。
SN 2002ap:
神奈川県の広瀬洋治(ひろせようじ)氏が発見した、これまでで最も近い極超新星。対応するガンマ線バーストは観測されていない。
GRB 021004:
バースト3分後に15等級の可視残光を検出(理研グループ)。VSNETグループの連続観測で、残光の減光は、直線的な部分と光度一定の部分が交互に現われるなど、非常に複雑なことが判明。

これらの研究から、ガンマ線バーストとそれに付随する現象は、以下のように考えられるようになってきています。

ガンマ線の放出:
小質量(太陽質量の1万分の1ほど)の軽い粒子のプラズマ(電子や陽電子、光子)が、ほぼ光速(光の速度の99.9%以上)で我々に向かって飛んでくるときに起きる。
残光:
上記のプラズマが、元の天体を取り巻くガスに衝突したときにできる外向きの衝撃波によって起きる。
閃光:
衝突時にできる内向きの衝撃波で起きる。
増光成分:
上記プラズマの発生源が(極)超新星であれば、バースト発生後数日から、超新星本体からの光が増光成分として観測される。ただし、この成分は、バースト直後の残光とくらべるとごく暗い。

これらに引き続いて、今年2003年3月29日に起きたガンマ線バーストでは、さらに新しい知見がいくつも得られ、6月19日発行の科学雑誌NatureでVSNETグループのものをはじめとして3本の論文が掲載されました。このGRB 030329の興味深い点について、順を追って見ていくことにしましょう。

3月29日バーストの検出

ガンマ線は地球の大気に吸収されてしまうので、天体からのガンマ線をとらえるためには、大気圏外に出なければなりません。これまで数々の天文衛星がさまざまな方法でガンマ線バーストを観測してきましたが、現在大活躍しているのは、日米欧が共同で作成したHETE-2衛星です。この衛星は、条件が良い場合、ガンマ線バーストをとらえて数十秒で、その位置を数十分角の精度(月の見かけの大きさがカバーする天空の中のどこか、というレベル)で衛星内で計算して地上に通報することができます。減光の速い残光を、通報を受けた地上の望遠鏡がとらえるために特化した設計です。

2003年3月29日11時37分14秒(時刻はすべて世界時、日本時は世界時に9時間 プラスすると得られる)、HETE-2が天体からのガンマ線をとらえました。条件がやや悪かったために、衛星上で天体の位置は特定されませんでした。しかし衛星から地上に送られたデータを解析することで、バースト発生から73分後に、天体の位置が直径4分角の円内であるとわかり、即座に世界中に通報されました。

残光の検出

HETE-2衛星からの情報がインターネットを介して通報されるやいなや、多くの望遠鏡がこの天体をとらえるために観測を開始しました。通報時に眼に見える光で観測を開始できるのは、その時点で夜であり、かつ天体が地平線上にある地域に限られます。このバーストが起きた時点では、天体は太平洋の上空にあったため、日本やオーストラリアで即時観測が始まりました。報告された観測開始時刻は、以下のようになっています(GCN circularに報告されたもの)。

(12時50分24秒)(位置の通報)
12時52分09秒理化学研究所(埼玉)
12時53分41秒京都大学(京都)
13時05分頃? サイディングスプリング天文台(豪)
13時05分19秒ROTSE-3a(豪)
13時06分30秒東京工業大学(東京)
13時21分26秒木曾観測所(長野)
13時33分34秒金沢大学(石川)
13時50分 ぐんま天文台(群馬)

サイディングスプリング天文台と理化学研究所の観測者から、HETE-2の報告位置の誤差の範囲内に、12等台の新天体があることがすぐさま報告されました。続いて京都大学の観測から、最初の1時間でこの天体が0.5等ほど暗くなっていることが報告されました。この天体がGRB 030329の残光現象であることが、ほぼ確実になったのです。天体の位置は、電波観測によって最終的に、

赤経: 10時44分49.9595秒
赤緯:+21度31分17.438秒 (J2000.0分点)

と求められました。しし座の背中の上にあたる位置です。

残光とは別の現象と考えられているGRB 990123の初期閃光を除いて、これほど明るいガンマ線バーストの他波長対応天体は初めてです。しかもその明るさが、バースト発生後70分以上経った後のものだったのが驚きです。GRB 021004ではバーストの3分後に15等級だったのと比較しても破格の明るさです。12等台と言えば、太陽系の惑星である冥王星よりも明るいですし、私たちに最も近い銀河団である「おとめ座銀河団」に出現する超新星が最も明るい時にも匹敵します。今回のバーストはどのような距離にあるのでしょうか。その答えは、残光の分光観測によってもたらされます。

ガンマ線バーストの距離

波長別に光を分ける分光観測では、さまざまなことがわかります。ガンマ線バーストの残光は、強度分布が振動数のべき乗(縦軸に光の強度の対数、横軸に振動数の対数をとると直線になる)で表わされる連続光成分が主です。さらに、その連続光成分が、特定の波長でだけ暗くなっている部分があります。これは、残光と私たちの間に存在するガスによって光が吸収されるためです。

この吸収は、ガスに含まれている元素によっておきます。元素が吸収する光の波長は、元素ごとに決まっています。ところが、このガスが私たちに近づいたり遠ざかったりする向きの速度を持っている場合、吸収波長がずれているように観測されます。救急車のサイレンの音の高さが変わるので有名な、「ドップラー効果」というものです。ひとつの吸収だけではなく、同じ運動をしている元素による多数の線が、いっせいに波長がずれますから、ガスの運動がわかります。

今回のガンマ線バーストの残光では、バースト発生の半日後頃から分光観測が行なわれてきました。その結果、吸収ガスは、私たちから毎秒およそ5万kmで遠ざかっていることがまもなく報告されました。遠くにある天体は、宇宙の膨張により、距離が大きいほど速い速度で遠ざかっています。これから、吸収ガスの距離は20億光年ほどであることが推定されます。これよりも大きな速度を持つ吸収がないこと、また、ガンマ線バーストとなった天体も銀河に属しており、その銀河の中のガスによる吸収が通常は強く観測されることから、ガンマ線バースト自身の距離も20億光年であると結論されています。

この距離はやはり驚きでした。ガンマ線バーストは、宇宙の深奥部、つまり非常に遠くにある天体であり、また昔の宇宙の現象であると考えられてきたからです。20億光年といえば、宇宙全体の6分の1足らずのところで、GRB 021004が120億光年の彼方にあったのにくらべても私たちのごく近くといってもいい距離です。残光が明るく観測されたのも、破格に近かったためだったのです。その割には母銀河は暗かったのですが、おそらく星生成がそれほど激しくない、小さな銀河であったと推定されています。

そのうえ、20億光年の距離にあるということは、バーストが起きたのは20億年前、つまり私たちの太陽系が生まれた46億年前にくらべてもずっと最近のことになります。50億年前の宇宙は、今の宇宙とそうは違わないようすであったことがわかっていますので、ガンマ線バーストという現象も、現在の宇宙、すなわちたいへん近いところで起きてもおかしくないものであることになります。

各所で残光観測

今回のたいへん明るい残光は、発生翌日も16等台の明るさを保っており、全世界で観測されることとなりました。その中には、研究者ではなく、天文愛好家の方々も多数含まれています。

日本の天文愛好家の方々が残光の観測に成功したのは、今回が初めてです。Nature論文の共著となった、企業が設立した公開天文台であるダイニックアストロパーク天究館(滋賀)の高橋進(たかはしすすむ)さんと杉江篤(すぎえあつし)さん、大学院生で変光星(明るさを変える星)の観測を趣味とされている前原裕之(まえはらひろゆき)さんをはじめ、何人もの観測者が残光をとらえたのです。また、フィンランドでは、望遠鏡を眼で覗いて、残光を見ることに成功しました。これはおそらく世界初でしょう。

一方、残光の検出がバーストの75分後であったことから、それ以前にはもっと明るく、もしかすると肉眼等級にも達したのではないかという興味が持たれました。そのため、火球(明るい流星)観測を目的とした全天モニター画像などが、主に観測条件の良かった日本で調査され、バースト前後のようすが調べられました。その結果、バーストとほぼ同時の観測でも、5.1等級より明るい天体は見つかりませんでした。現在もこの調査は継続中ですので、バースト発見前後にしし座方向を撮影された画像がありましたら是非御提供いただけますようお願いします。

継続的な残光の明るさ測定(測光)から、残光はGRB 021004の時よりもさらに複雑な光度変化をしていたことがわかりました(VSNETグループ)。一直線のべきではとても説明できません。この原因については今もさまざま議論がありますが、結論には至っていません。しかしこの観測は、残光のメカニズムの解明に大きな一石を投じたものと言えるでしょう。

さらなる分光観測

残光の測光観測と同様、分光観測も続けられました。最初の数日間は、はじめに述べたようなべき乗のスペクトルだったのですが、次第にスペクトルがやや波打つようになってきました。べき乗の成分を引いてみると、極超新星のものに良く似通ったスペクトルが現われたのです。これまで、残光の光度曲線から超新星成分があるのでは、と言われてきましたが、残光現象に確実に関連した極超新星が初めて観測されたのです。今回の超新星成分には、超新星2003dhという名前が与えられました。5月にはすばる望遠鏡でも分光観測が行なわれ、超新星2003dhがこれまでの極超新星と比較されています。

GRB 980425では、弱いガンマ線バーストと極超新星が矛盾しない位置で観測されましたが、残光は見つかっていませんでした。ガンマ線バーストを伴わない極超新星もいくつか観測されてきています。ガンマ線バーストと残光、そして極超新星の関係について、今後解明が進められることでしょう。

まとめ

今回のGRB 030329で初めて明らかになったことは、少なくともこの例では、

  • ガンマ線バースト残光は複雑な光度変化をしている
  • ガンマ線バーストと極超新星は密接に関連している
  • 現在の宇宙でもガンマ線バーストは起きている

ことが挙げられます。これほどインパクトの大きい天体もまれです。今後、今回のバーストを再現するモデル計算が行なわれ、さらに他のバーストにも同様のモデルを適用することで、ガンマ線バーストの謎がひとつずつ解かれていくことでしょう。