最新研究成果を発表、日本天文学会2005年春季年会
【2005年3月31日 アストロアーツ】
3月28日〜3月30日まで、東京・日野市にある明星大学日野キャンパスで「日本天文学会」(2005年春季年会)が行われた。会見では、南米チリに設置された10mサブミリ波望遠鏡「ASTE」の本格観測開始や、すばる望遠鏡が捉えた超巨大ブラックホールの活動の様子、東京学芸大学の研究部グループによる世界初の暗黒星雲の全天地図の完成などについての発表が行われた。
<南半球初の10mサブミリ波望遠鏡「ASTE」本格観測開始>
国立天文台のASTE望遠鏡が本格観測を開始した。南半球初となる口径10mクラスのサブミリ波望遠鏡を、南米チリ北部のアタカマ砂漠、標高4800mの高地に設置し運用している。将来のALMAによる大規模観測につなげてゆくことも視野に入れ、世界に先駆けて南天でのサブミリ波天文観測を展開している。これまでにも、星形成領域における「星のたまご」の発見、近傍銀河における「星を生み出す効率」の解明など、続々と観測成果があがっている。
このうち「星のたまご」の発見については、可視光や赤外線では見ることのできない星間ガスのもっとも密度の高い部分をサブミリ波で観測した結果によるものだ。研究チームでは、南の空でもっとも明るい電離領域(HII領域)の1つであるNGC 3576(りゅうこつ座、距離およそ1万光年)をASTEで観測し、若い星からの強い光によって熱せられた密度の高い星間雲の複雑な構造を初めて詳しく描き出すことに成功した。さらに、その中に星の「たまご」(ひじょうに密度の高い星間ガスのかたまり)を複数発見している。
また、星を生み出す効率は銀河内の場所ごとに大きく異なることがわかっているが、同望遠鏡を用いた観測で、M83に分布する密度の高い星間ガスの全貌も初めて明らかにされた。詳しい分析結果からは、星間ガスの密度が高い領域では、星を生み出す効率が上昇していること、逆に、星間ガスの密度が低いところでは、効率が下がっていることなどの情報が得られた。
<超巨大ブラックホールに隠された激しい活動性と可視光フレアの発見>
すばる望遠鏡を用いた時間変動天体の大規模探索では、約40億光年の距離にある一見ごく普通の銀河の中心部分がわずか数日の間に大きく増光する現象(フレア)が発見された。
観測された放射は、太陽質量の約1億倍という超巨大ブラックホールの周囲約10億キロメートルの距離を光速に近い速度で回転しているガス円盤領域からのものであると考えられている。このブラックホールは我々の銀河系中心に存在すると言われるブラックホール(太陽の300万倍の質量)よりはるかに大きい。そのような巨大なブラックホールから可視光域で激しい活動現象が発見されたのは初めてのことだ。すばる望遠鏡の大口径と広い視野を活かした成果であり、どの銀河にも中心核に超巨大ブラックホールが普遍的に存在するという、現在主流となりつつある考えをさらに裏付ける結果と言えるだろう。
<天空の地図帳、ついに完成、暗黒星雲の全天アトラス>
東京学芸大学の研究グループは、全天を網羅する暗黒星雲の精密なアトラス(地図帳)を世界で初めて作成することに成功した。
ガスとダスト(塵)からなる暗黒星雲は、星の誕生の場として銀河系の中でも特に重要な役割を果たしている。暗黒星雲は背景の星の光を遮るため、肉眼では星の数の少ない、暗い領域として認識される。研究グループは、アメリカのパロマー山天文台およびアングロ・オーストラリア天文台の1.2mシュミット望遠鏡によって撮影された1950年代からの写真を、6年以上の歳月をかけて計算機で処理し、約7億個の星の明るさや座標を調べた。星の分布の疎密を調べることで、暗黒星雲の姿を全天で正確に描き出すことに成功したのだ。
星の故郷ともいうべき暗黒星雲のカタログやアトラスは過去にも何例か発表されているが、いずれも暗黒星雲の大雑把な位置と広がりだけを記録した精度の低いものであった。6分角(満月の視直径の約5分の1)という高い解像度で暗黒星雲の細部まで正確に描写しているアトラスはひじょうに画期的なもので、国内外の研究者の注目を集めている。