地球帰還に向け、運転再開を目指す「はやぶさ」
【2005年12月9日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース 】
地球帰還が危ぶまれている小惑星探査機「はやぶさ」は、12月1日に、断続的ではあるものの、ローゲインアンテナを使った通信が回復した。その結果、11月27日以降に起こった一連のトラブルの状況が明らかになった。発電力の低下、漏洩した燃料の気化による温度低下、システム全般の電源系がリセットされていたなどだ。この状況について川口プロジェクトマネージャは、「探査機が生きていて、通信機能が回復したのは奇跡的なほどの重傷だった」と語っている。現在これらの問題に対し、「はやぶさ」プロジェクトチームでは、地球帰還の望みを捨てず、日々必死の対策と分析が急ピッチで進められている。
すでに発表されているように、「はやぶさ」との通信は、11月29日にローゲインアンテナによるビーコン回線がやっと復旧していた。続いて、11月30日からは、自律診断機能による電波の変調のオンオフによる通信が開始された。そして12月1日、ローゲインアンテナ経由で、断続的ながら毎秒8ビットの伝送速度で、テレメータデータの取得が行えるようになった。
データを分析すると、11月27日の姿勢軌道制御は、何らかの原因により不調に終わり、大きな姿勢喪失または何らかの原因による電力喪失が発生したようだ。探査機内に漏洩した燃料の気化にともない、かなりの機器が大幅な温度低下に陥り、発生電力の低下によってバッテリに深い放電が発生、その影響で搭載機器、システム全般の電源系が広い範囲でリセットされたと推定されている。
12月2日には、化学エンジンの再起動が試みられ、小さな推力は確認できたが、本格的な始動にはいたらなかった。このことから、11月27日に発生した一連の異常は、化学エンジンの不調に端を発した可能性が高い。
12月3日には、探査機のハイゲインアンテナ方向と太陽、地球をなす角度が、20〜30度に拡大していた。緊急の姿勢制御法として、イオンエンジン運転用のキセノンガスを噴射するという方法が採用され、ただちに運用ソフトウェアの作成が開始された。12月4日にソフトウェアが完成。実際にキセノンガスの噴射によるスピン速度の変更が試みられ、同機能の動作が確認された。その後、ただちにこの方法による姿勢変更指令が実施された。
その結果、12月5日には、太陽、地球とハイゲインアンテナの指向方向のなす角度は、10〜20度まで回復し、テレメータ情報を最大毎秒256ビットの速度で、ミディアムゲインアンテナ経由で通信できる状態にまで復旧した。その後、試料採取のための弾丸発射の火工品制御装置の記録が取得できた。それによれば、正常にプロジェクタイル(弾丸)が発射されたことを示すデータが確認できず、11月26日にプロジェクタイルが発射されなかった可能性が高いことが明らかとなった。ただし、システム全般の電源が広い範囲でリセットされたことによる影響も考えられ、11月26日の着陸前後の一連の動作の確認も含め、詳細を解析中だ。
12月6日現在、「はやぶさ」探査機のイトカワからの距離は、視線方向に約550km、地球からの距離は約2億9千万kmで、イトカワから地球方向へは、相対的に時速約5kmで飛行中だ。宇宙航空研究開発機構では、現在、「はやぶさ」のイオンエンジン立ち上げのために、各機器を1つずつ再起動し、試験・確認を行っている。今後、唯一機能しているZ軸リアクションホイールを使用する姿勢制御へ移行し、イオンエンジンの運転再開を目指している。運転再開は、早くても来週後半の14日以降になる見通しだ。帰還軌道計画については、現在もなお再設計中で、姿勢制御の回復にメドをつけ、地球帰還を目指す意向だという。