宇宙最大の磁場を生み出す、中性子星同士の衝突

【2006年5月2日 RAS NewsUniversity of Exeter News

宇宙最大級の爆発現象として知られるガンマ線バーストだが、その一因とされているのが中性子星同士の衝突だ。この衝突を、初めて磁場を考慮に入れてシミュレーションすることにイギリスなどの研究チームが成功した。その結果、発生する磁場は宇宙で最大級のものだとわかり、確かにガンマ線バーストを引き起こし得ることが裏付けられた。同時に、このシミュレーションは数ミリ(1000分の1)秒の現象を再現するのにスーパーコンピューターで数週間も計算するという、これまた大規模なものであった。


(中性子星同士の衝突シミュレーションの画像

中性子星同士の衝突シミュレーションの画像。クリックで拡大(提供:Daniel Price (U/Exeter) and Stephan Rosswog (Int. U/Bremen) )

中性子星とは、太陽ほどの質量がわずか半径10キロメートルの大きさに閉じこめられた高密度の天体であり、通常、質量の大きな星が超新星爆発を起こした末に誕生する。この中性子星が、誕生時をさらに上回る爆発を引き起こすことがある。それは中性子星同士が連星となっている場合で、アインシュタインの相対性理論によれば、2つの中性子星は徐々に接近し最後に劇的な大衝突を起こす。

中性子星同士の衝突は、宇宙最大の爆発現象である、ガンマ線バースト(解説参照)の原因の一つと見られている。しかし、中性子星同士の衝突でそれだけのエネルギーが生じるかどうか検証するのは、簡単に見えて実に困難なことだ。それは、超高密度核物理学、素粒子物理学、一般相対性理論といった「極限的な」物理学を用いなければ説明できず、そして再現できない現象だからである。

「衝突をモデル化し、磁場の効果を入れて計算するだけのマシンパワーが用意できるようになったのは、ごく最近のことです。このプロジェクトを遂行するに当たって、昼夜プログラムを書き続ける日々が何ヶ月も続きました」と語るのは、初めて中性子星同士の衝突をその磁場と共にシミュレーションすることに成功したグループの一人、英・エクセター大学のプライス(Daniel Price)教授だ。プログラミングに数ヶ月、計算に数週間かけて、ようやく衝突から数ミリ秒後の状態が再現できた。相当なエネルギーが費やされた数ミリ秒と言えるが、衝突の現場においてその数ミリ秒で発生するエネルギーは、われわれの想像を絶するものだった。チームの一員、独・ブレーメン国際大学のロスワグ(Stephan Rosswog)教授は、その磁場の強さについてこう述べている。「身近な磁場、例えば冷蔵庫に張り付いている磁石は、およそ100ガウスの強さです。一方この衝突は、なんと10兆倍も強い磁場を作り出すのです」

ガンマ線バーストに関する研究は近年急速に進んでおり、特に数秒以上持続する「長い」ガンマ線バーストは規模の大きい超新星爆発であることがほぼ確実と見られている。一方、爆発時間が短いガンマ線バーストは、その残光の様子から中性子星やブラックホール同士の衝突と推測されているが、その背景にある物理的メカニズムには、まだまだ謎が多い。


ガンマ(γ)線バースト :1967年、アメリカの核実験監視衛星によって偶然発見された現象。数秒から数十秒の突発的なガンマ線のバーストが全天のあちこちで観測されるもの。1度きりの現象で、全天で1日に1個程度検出されている。1997年に、ガンマ線バーストの位置に、X線・可視光・電波で光り、急速減光していく天体=残光が発見され、ガンマ線バースト研究は一気に進んだ。(「最新デジタル宇宙大百科」より)