【特集・太陽系再編】(1)太陽系の外へ広がる影響

【2006年8月17日 アストロアーツ】

8月24日、国際天文学連合総会で「惑星」の定義が決定します。「惑星の数が増えそうだ」ということが話題を呼んでいますが、重要なのはそれだけではありません。そこで、アストロアーツニュースでは「特集・太陽系再編」として注目すべきポイントを4回にわけて紹介します。第1回は、この10年で急激に発展した「系外惑星」、つまり太陽系の外にある惑星を研究する分野への影響を考えます。


本文に基づく惑星と認められる天体、認められない天体、あいまいな天体の図解

「惑星とは、(a)十分な質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡(ほとんど球状)の形を持ち、(b)恒星の周りを回る天体で、恒星でも、また衛星でもないものとする。」(国立天文台 アストロ・トピックス 230

これが、国際天文学連合(IAU)が示した「惑星の定義」の原案です。(a)の定義は、これまであいまいだった「冥王星は惑星なのか?」などといった問題に決着をつける上で、「重力の影響」を基準として示したものです。さて、注目すべきは(b)です。惑星のことを「太陽の周りを回る天体」ではなく「恒星の周りを回る天体」としたのは、明らかに私たちの太陽系以外の惑星、「系外惑星」を意識したものと言えるでしょう。

1995年に第1号が見つかって以来、系外惑星の発見は相次いでいて、その数は2006年7月に200個を越えました。今回の定義が採択されれば、これらの天体はすべて地球と「同格」になります。そう、これまで「9個」とされてきた惑星の数は、定義の上からは「200個以上」になると言っても過言ではありません。もちろん、ほとんどの方にとっては「太陽系の惑星」がいくつになるのか、が重要なのかもしれませんが。

「恒星の周りを回る」という言葉が持つ意味はそれだけではありません。たとえ地球や木星のようなサイズの天体が存在したとしても、恒星の周りを回らずに単独で「浮遊」していたら、それは「惑星」ではないのです。実際、こうした「惑星質量天体(Planetary mass objects)」(仮称)はいくつか発見されていて、「系外惑星」とは別種の天体として扱われてきました。今回IAUが提示した原案もこうした経緯を反映しているとも言えそうですが、それでは、「惑星質量天体」のことを正式にはなんと呼べばいいのでしょうか。IAUではいまだに「惑星質量天体」を定義するような用語を決めていません。しばらくの間は、「惑星質量天体」はあらゆる意味で無所属のままなのです…。

原案に盛り込まれなかった「褐色矮星」の扱い

(おおかみ座GQ Aと伴星で「惑星候補」のおおかみ座GQ b)

おおかみ座GQ A(GQ Lupi A)とその伴星、おおかみ座GQ b(GQ Lupi b)。GQ Lupi bを「初めて直接撮影された系外惑星」とする声もあるが、褐色矮星である可能性も残る。決定は困難だ(提供:ESO)

さて、太陽系の外を考慮しながら新定義を見ると、もう1つ重要なことに気づきます。IAUの原案で示されたのは惑星としての「下限」です。ではいったい惑星としての「上限」はどこにあるのでしょうか?

「恒星でもない」というのが上限だと考えては、大間違いです。なぜなら、「恒星」よりも一回り小さい天体に「褐色矮星(かっしょくわいせい)」と呼ばれるものがあり、「惑星」とは異なる存在として広く受け入れられているからです。恒星とは、自分でエネルギーを作り出して輝く天体です。もっと具体的にいえば、軽い元素どうしをくっつけて重い元素を生み出す「核融合」という反応で大量の熱と光を作り続けています。これに対して、褐色矮星は誕生して間もないうちは特殊な核融合反応が起きますが、すぐに消えてしまい、余熱だけで暖まっています。私たちの目で見える光(可視光)では輝かず、赤外線で観測しなければなりません。

原案をそのままあてはめると、恒星の周りを褐色矮星が回っていたら、「惑星」ということになってしまいます。しかし、現代天文学の常識からいえばそれはありえないでしょう。実はIAUも公式ウェブサイトでこのことに触れています。それによれば、「『惑星』と『褐色矮星』の境界線は一般に木星の13倍の質量を持つことだとされているが、さらなる議論を待たねばならない」とのことです。「木星の13倍の質量」は、これだけ質量があれば、誕生直後に核融合反応が起きるだろうと言われている数字です。しかし、境界線上にある天体を調べて過去に核融合が起きていたかを知るのは困難ですし、そもそも質量を正確に求めるのも容易ではありません。議論が足りていないのはもちろんですが、理論や観測技術の進歩も待つ必要がありそうです。

もちろん、「褐色矮星」の周りを惑星質量天体が回っていたらどうなるか、も考えなければいけません。

今回採決される「惑星の定義」は、太陽系の中で生じた問題を解決するためにあると言えるでしょう。議論の過程で太陽系の外に目が向けられていることはうかがえますが、「褐色矮星」との境界は未解決のまま終わる可能性が高そうです。系外惑星の発見と研究が進めば進むほど、このことは無視できなくなってくるはずです。「惑星の下限」で始まった議論は、「惑星の上限」が定まるまでは終わりといえません。


※この特集は、IAUが発表した文書を元にした解説です。「惑星の定義」はまだ原案であり、24日に行われる採決の際は変更されている可能性があります。