初めてとらえた、球状星団内に巨大なちりの雲

【2006年11月7日 University of Minnesota Press Releases

球状星団は小さくて年老いた恒星からなる集まりで、超新星爆発とともにちりをばらまくような巨大な恒星はない。そんな球状星団の中にもちりの雲が存在するのを、NASAの赤外線天文衛星スピッツァーが初めて確認した。惑星などの材料となるちりを供給するのは、超新星爆発だけではないようである。


(球状星団M15の赤外線画像)

球状星団M15の赤外線画像。右側の画像内、赤い部分がスピッツァーがとらえた巨大なちりの雲。クリックで拡大(提供:M. Boyer, C. Woodward, University of Minnesota)

太陽や地球、さらにはわれわれの体を形成する元となったちりは、一般には超新星爆発によって作られたとされている。しかし、現在宇宙に存在するちりの元をたどると、超新星爆発だけでは説明できない。派手さには欠けるが、小さな恒星のおだやかな死も忘れてはならない存在だ。

超新星爆発を起こすほど巨大な恒星は存在せず、小さな恒星だけからなる集団といえば球状星団(解説参照)があげられる。これまで、球状星団の星々の間にちりが分布しているのは観測された例がなかった。だが、NASAの赤外線天文衛星スピッツァーが、球状星団の中に存在する巨大なちりの雲を撮影することに成功した。

観測を行ったのは、米ミネソタ大学の大学院生Martha Boyer氏とCharles “Chick” Woodward教授が率いる研究チームである。観測の対象となったのは、ペガスス座の球状星団M15。太陽に近い質量を持つ数十万個の星が密集した星団だ。星団の年齢は125億歳程度と考えられているため、将来の太陽がそうであるように、燃料を使い果たして死を迎えようとしている恒星が多い。恒星は膨らんで赤色巨星となり、外層から物質を星間空間へ放出しているのである。

もっとも注目すべきは、M15の恒星が「古い世代」に所属していることだ。

宇宙が誕生して最初に生まれた恒星は、ほぼすべて水素とヘリウムからできていた。水素やヘリウムよりも重い元素は、恒星の内部で生成されて、恒星の死後放出される。そのため、後からできた恒星ほど重元素を多く含む。「ガス」に対する「ちり」とは、まさに重元素で形成された粒である。炭素、酸素、窒素といった重元素が核となり、ケイ素などを集めることでちりとなるのだ。よって、同じ小さな恒星の死でも「新しい世代」の恒星ほど多くのちりをばらまきそうに思える。

ところが、M15の場合、逆に恒星に含まれる重元素が少なかったからこそ多くのちりを形成できたようだ。重元素を豊富に含む恒星の外層では、炭素と酸素が結びついて一酸化炭素(気体)を形成しがちである。重元素に乏しいM15の星々は、外層に含まれる酸素が少ないため、炭素がそのまま放出される。こうして、M15の中に観測された巨大なちりの雲が形成されたというわけだ。

小さな恒星の死は超新星爆発と同じかそれ以上に重要なちりの供給源であるとBoyer氏は考えている。「私たちの観測結果が示すのは、平凡な恒星が、たとえ含まれる重元素が少なくても、効率よくちりを形成できるということです。そのちりが星間ガスと結びついて、新しい恒星や惑星を形成したのでしょう。約130億年前は、球状星団の中だけでなく、あらゆる恒星がこのような(小さくて重元素が少ない)ものだったと考えられます。やがて年老いて赤色巨星となり、ちりをばらまいたのです。」

球状星団

「球状星団」は年老いた星が集まっている存在だ。構成している星の数は数十万個、場合によっては100万個に達するケースもある。球状星団の年齢を星団を構成している星の色などを使って調べると、質量が太陽と同じか、それ以下の寿命の長い赤い星、さらには進化の進んだ巨星で構成されていることが分かる。散開星団のように質量が大きくて寿命の短い青い星はほとんど見当たらない。こうしたことから球状星団は100億年以上前に誕生したと見られている。(150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室(Q96:球状星団は古い星の集まり?) より[実際の紙面をご覧になれます])