ニューホライズンズ、史上最速の木星接近へ 観測にも期待
【2007年1月22日 New Horizons News】
2月に木星へ接近するNASAの冥王星―エッジワース・カイパーベルト探査機「ニューホライズンズ」が撮影した木星の画像が地球へ送られてきた。人類史上最速で木星を通過するニューホライズンズは、スイングバイによってさらに加速する。軌道修正と機器の調整がおもな目的だが、木星やガリレオ衛星の観測にも期待が集まる。
2006年1月19日(米東部標準時)に打ち上げられたニューホライズンズは2015年7月に冥王星に到着するまで、太陽系の中を飛行し続ける。その長い旅路で最大級のイベントと言えるのが、木星への接近だ。
ゴールが遠いだけに、ニューホライズンズはこれまでにないほど速く飛んでいる。木星最接近は2月28日と、打ち上げから1年1か月強。これに対し、外惑星に次々と接近通過したNASAの惑星探査機パイオニア10号は、1年9か月かかった。パイオニア11号は1年8か月、ボイジャー1号は1年6か月、ボイジャー2号は1年11か月ほど。1989年に打ち上げられた木星探査機ガリレオは到着まで6年かかっているし、土星探査機カッシーニの木星接近通過も打ち上げから3年2か月後のことだった。これまでの「最短記録」は、1990年10月に打ち上げられ、太陽周回軌道に乗る過程で木星への接近を利用したESAの太陽探査機ユリシーズによる1年4か月である。
ニューホライズンズが木星に近づく理由は3つ挙げられる。
もっとも肝心な目的は、スイングバイだ。スイングバイとは、探査機が大きな天体の近くを通過することで、重力場を利用して軌道を曲げた上、加速(ときには減速)することである。ニューホライズンズは木星スイングバイによって合わせて秒速4キロメートルの加速を得て、太陽から秒速23キロメートルで遠ざかるようになる。スイングバイがなければ、冥王星到達は早くて2018年になってしまうという。
2つ目の目的は、動作確認である。実際に天体へ接近したときに機器は正常に稼働し、観測装置は予定どおりデータを取得し、地球へ無事に送信できるか。地上でのテストではカバーしきれない項目に技術的問題点がないか調べ、必要に応じて調整する。冥王星到達8年前のゆとりある最終チェックだ。
そして最後の目的は、副次的ではあるが、木星とその衛星を観測することだ。探査機が木星に接近するのは2003年にガリレオが役目を終えて以来のことで、しかもニューホライズンズの次は2016年木星到達予定の探査計画「ジュノー」を待たねばならない。木星にもっとも近いときで230万キロメートルの距離を通過するニューホライズンズは、その前後、1月から6月の5か月間で700回におよぶ観測を行う。観測時間と取得するデータの量は、8年後の冥王星探査に匹敵しそうだ。今回の木星探査には決して「事のついで」と言えないほどの価値があり、ニューホライズンズに搭載された7つの観測装置にはそれぞれ出番が待っている。
もっとも注目を集めそうなのが、2005年12月に出現した「中赤斑」をはじめとした木星の大気構造の観測だろう。有名な大赤斑とほぼ同じ色で地球ほどの直径を持つ木星の嵐、中赤斑に探査機が迫るのは、当然ながら初めてのことだ。最接近時に望遠撮像装置LORRIを使えば、ハッブル宇宙望遠鏡の10倍もの解像度が得られる。
木星の巨大な磁気圏にも多くの天文学者が関心を寄せている。地球の100万倍という広大な磁気圏には、衛星イオの火山活動によって毎秒1トン程度のプラズマ(マイナスの電気を帯びた硫黄や酸素などの粒子)が供給されているという。木星を取り巻く巨大なドーナッツのように分布し、紫外線で輝くプラズマを、紫外線分光装置Alice(アリス)が観測する。また、木星の磁気圏は太陽風に押されて彗星のように細長く後ろに伸びている。ニューホライズンズはこの中を通過し、ヴェネチア・バーニー学生微粒子計数器(VBSDC)などを使って物質の分布を細かく計測する。
このほか、木星のオーロラの観測、木星を取り巻く環の観測、4つのガリレオ衛星の観測などが予定されている。スイングバイのための軌道調整が成功して機器の正常動作が確認でき次第、順次データが地球へ送られる予定だ。