超音速で突き進むガスの「弾丸」

【2007年3月29日 Gemini Observatory

ハワイ・マウナケア山のジェミニ北望遠鏡が、オリオン座大星雲(M42)の中を超音速で飛び抜けるガスの塊とその航跡を鮮明にとらえた。活発な星形成が進むオリオン座大星雲では、若い大質量星が周辺の物質に影響を及ぼし、珍しい現象を引き起こすのだ。


(水素分子雲の中を突き抜けるガスの塊)

オリオン座大星雲の中を突き抜けるガスの塊。クリックで拡大(提供:Gemini Observatory)

(ガスの塊が存在する領域を示したオリオン座大星雲の画像)

「弾丸」が存在する領域を示したオリオン座大星雲の画像。クリックで拡大(提供:M. Robberto/STScI and NOAO/AURA/NSF/Gemini Observatory (inset))

ジェミニ北望遠鏡が、秒速400キロメートルでオリオン座大星雲の中を突き抜けるガスの塊を撮影した。この領域はひじょうに希薄なガスで満たされているが、この塊はガスの中で音が伝わる速度の1000倍で移動している。まさに超音速の「弾丸」と言えるが、この表現は少々誤解を招くかもしれない。1つ1つの塊がわれわれの太陽系にも匹敵するほど巨大だからだ。「弾丸」の「航跡」は0.2光年もの長さに達している。「鉄砲」にあたるメカニズムはよくわかってないが、「弾丸」が放出されてから1000年も経っていないと考えられている。

先端付近で青く輝いているのは、衝撃波によって摂氏約5000度に加熱された鉄の原子だ。水素を主成分とする星雲と「弾丸」は激しく衝突しているため、先端付近では水素は分子として存在できない。「弾丸」が通り抜けた後は、分子状態の水素が約2000度に暖められ、オレンジ色の航跡が残されている。立体的に考えれば管のような構造だ。

「弾丸」の存在は1983年から知られていて、1992年までには赤外線での観測が進み、その起源がおおまかながらわかってきた。ガスの塊は星雲内部奥深くから放出されていて、形成されたばかりで大質量星が存在する星団と関係しているらしい。

この領域を研究してきた豪・ニューサウスウェールズ大学のMichael Burton教授は「今までぼんやりとしか見えなかった領域からこのような構造が浮かび上がってきて驚きました。これだけの観測精度があれば、弾丸が突き進むに従って起こる変化まで観測できるでしょう」とコメントした。

ハワイ・マウナケア山の山頂に位置するジェミニ北望遠鏡は、南北両半球に設置された8メートル望遠鏡ペアの片割れで、1999年に完成した。空気のゆらぎを相殺する最新技術を用いて撮影したことで、従来見ることのできなかった細かい構造が浮かび上がったのである。