宇宙で超巨大な「空洞」が見つかった

【2007年9月4日 NRAO Press Release 9月14日 更新

電波の観測から、約10億光年にわたって何もない領域が見つかった。そこには星や銀河はもちろん、ガス、そしてダークマター(暗黒物質)さえ存在しない。大きなスケールで見れば、宇宙には泡のように「空洞」が連なっていることが知られているが、今回見つかった「空洞」のサイズはけた違いだ。


(COSMOS天域におけるダークマターの3次元構造)

「巨大ボイド(空洞)」とその効果を示した概念図。ビッグバンからしばらくして放たれた宇宙マイクロ波背景放射には、わずかな温度の「ゆらぎ」がある(右)。それが巨大ボイドを通過すると(中)、「コールドスポット」が観測される(左)。クリックで拡大(提供:Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF, NASA)

宇宙にはほとんど物質が存在しない「ボイド(空洞)」が存在し、膜のように分布する銀河団とともに、泡が積み重なったかのような「大規模構造」をなしていることはよく知られている。ビッグバンで誕生して間もない宇宙には、場所によってわずかなゆらぎ(温度差)があり、それが大規模構造へ発達していったと考えられている。

典型的なボイドは1億光年スケールの大きさがあるが、今回見つかった巨大ボイドの大きさは桁が1つ違う。これほど大きなボイドは、今まで見つかったことがないのはもちろん、ビッグバンから大規模構造が形成されるまでの過程をコンピュータでシミュレーションしても再現できないという。直径は10億光年弱で、地球から60〜100億光年の距離にある。

そんな巨大ボイドの存在が浮かび上がってきたのは、2004年にNASAのマイクロ波観測衛星WMAPがエリダヌス座付近の宇宙背景放射(解説参照)を撮影したときだった。

宇宙背景放射には、「ゆらぎ」と呼ばれるように方向によってわずかな温度差がある(波長の違いとして観測される)が、エリダヌス座には目立って温度が低い領域があったのだ。「コールドスポット(冷たい場所)」と名付けられたこの領域の異常は、果たして宇宙初期のゆらぎなのか、途中で何者かの影響を受けた結果なのかは、謎とされていた。

議論を大きく前進させたのは、米国国立電波天文台(NRAO)の超大型電波干渉計(VLA)による観測だった。VLAは広い範囲の空について、銀河が発する電波を撮影していたのだが、「コールドスポット」と同じ領域に銀河が存在しないことを突きとめたのである。

「何もない」ことが通過する背景放射に影響を与えるのはなぜだろう。その原因となっているのは、「ダークエネルギー」である。

宇宙には「観測できる物質とエネルギー」のほかに、決して観測できない「ダークマター(暗黒物質)」や「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」が存在する。とくにダークエネルギーは重力とは逆の反発作用、「斥力」として機能していて、それが宇宙の膨張を加速させているらしい。加速膨張する宇宙では、物質が集まった領域を通過した背景放射は、温度がわずかに高く観測される。しかし、巨大ボイドを通過した背景放射は、物質が存在しない分温度が低く観測されるというわけだ。(※)

これまでに登場した宇宙背景放射とそのゆらぎ、ダークエネルギーの存在(宇宙膨張加速の発見)などは、宇宙論を根本から変えてきた発見である。今回見つかったボイドも、本物であれば、そのサイズ同様、宇宙論に大きな影響を与えそうだ。

2007年9月14日追記 読者の方より、一部文章(※の段落)の誤訳をご指摘いただきました。内容を確認のうえ、該当個所を修正して再度公開いたしました。

宇宙背景放射

宇宙が高温・高密度状態で誕生して膨張しながら現在の姿になったとする「ビッグバン論」を提唱した米国の理論物理学者ジョージ・ガモフ(1904年〜1968年)は、さらに「宇宙背景放射」を予言した。

ビッグバンの後しばらくの間は電子と光子が衝突し合って光が直進できない時代があったと考えられている。ガモフは、宇宙誕生から38万年たったころには宇宙が冷えてきて、素粒子から水素原子がつくられて光が直進できるようになると考えた。この時期を「宇宙の晴れ上がり」と呼び、そのころの光を観測できるはずだとした。

1964年に、背景放射は天の川銀河外のあらゆる方向からやってくる電波(マイクロ波)として発見された。宇宙が膨張しているため、ガモフが予言した光の波長は赤方偏移で大きく引き伸ばされ、マイクロ波となって観測されたのだ。

(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q141 宇宙背景放射って何? より抜粋[実際の紙面をご覧になれます])