岡山天体物理観測所、宇宙最遠の巨大爆発をとらえる
【2009年5月1日 国立天文台 アストロ・トピックス(466)】
国立天文台 岡山天体物理観測所の口径188cm望遠鏡が、約131億光年の距離にあるガンマ線バーストの残光をとらえることに成功した。この距離は、すばる望遠鏡が持っていた最遠方天体発見記録を上回るものだ。
アストロ・トピックスより
宇宙では、しばしばガンマ(γ)線バーストという現象が起こります。大質量星が崩壊してブラックホールが作られる超新星という巨大爆発現象に伴い、強いガンマ線のビームが特定の方向に放射されるものと考えられています。ガンマ線だけでなく、バースト発生から時間が経つにつれて急速に暗くなる可視光や赤外線での「残光」がとらえられれば、ガンマ線バーストの距離や性質を詳しく調べることができます。こうしたガンマ線バーストは、その爆発現象の巨大さのために、宇宙のはるか彼方でも発見されてきました(注1)。そして、昨年に記録されたGRB 080913の赤方偏移=6.695がこれまでで最遠の記録でした(赤方偏移の値が大きいほど、距離が遠いことを意味します)。
しかし、ついに赤方偏移としてはじめて8の大台にのる天体が現れました。2009年4月23日16時55分(日本時)に発生したガンマ線バーストGRB 090423です。この天体は、アメリカのガンマ線天文衛星スウィフトによって、しし座の方向に検出されました。そして、地上の望遠鏡による追観測のため、その正確な位置が全世界の研究者に伝えられ、即座に多くの望遠鏡が向けられたのです。
国立天文台 岡山天体物理観測所の口径188cm望遠鏡に装着された赤外線観測装置ISLE(アイル)も追観測を行い、この天体からの残光をとらえることに成功しました。岡山天体物理観測所では同時にガンマ線バースト専用光学望遠鏡MITSuME(注2)でも観測しましたが、可視光ではまったく残光が見えず、非常に大きな赤方偏移をしたバーストであることが示唆されました。遠方天体からの光は宇宙空間にわずかに分布する水素原子に吸収されるので、波長の長い赤外線しか届かないためです。
岡山天体物理観測所で観測を実施した吉田道利(よしだみちとし)所長は、「ちょうど赤外線観測装置の試験中でラッキーだった。まさか188cm望遠鏡で宇宙最遠の天体が見られるとは想像していなかった。ガンマ線バーストはいつどこで起こるか予測ができないので、世界中に観測システムを整えておく必要を痛感した」と語っています。
さらに、スペインにあるガリレオ望遠鏡(口径3.6m)や、チリにあるヨーロッパ南天天文台の口径8m望遠鏡VLTなどで残光の詳しい分光観測が行われ、その距離がGRB 080913の記録を破る約131億光年(赤方偏移8.2)と求められました。この距離は、すばる望遠鏡が持つ世界最遠の銀河の発見記録(約129億光年、赤方偏移=6.96)をも上回るものです(注3)。すなわち、岡山でとらえられたこのガンマ線バーストの残光の輝きこそ、これまで人類が見た中では最遠の光ということになるわけです。
現在、この天体について詳細な解析が進められています。ガンマ線バーストの観測で成果を上げてきた「すばるGRBチーム」を率いる東京工業大学の河合誠之(かわいのぶゆき)教授は「これからも同様な遠方のガンマ線バーストが見つかる可能性がある。ことによると、赤方偏移が20以上の遠方に誕生したとされる、宇宙で最初に生まれた星が起こす爆発を目撃できるかもしれない。このようなガンマ線バーストは銀河や星ができ始めたばかりの幼い宇宙を探る有力な手段となる」と述べています。これからもガンマ線バーストからは、目が離せません。
注1:例えば、2005年9月4日(日本時間)に検出されたガンマ線バーストGRB 050904は、すばる望遠鏡によって、128億光年(赤方偏移=6.295)という正確な距離が測定され、当時のガンマ線バーストとしての最遠記録を樹立しました(アストロ・トピックス 139)。
注2:岡山天体物理観測所 ガンマ線バースト専用光学望遠鏡 MITSuMEについては、アストロ・トピックス 178を参照してください。
注3:すばる望遠鏡が持つ銀河の世界最遠方発見記録(赤方偏移=6.96)については、アストロ・トピックス 242で解説しています。
注4:すばる望遠鏡は、スケジュールの都合でガンマ線バーストGRB 090423を観測することができませんでした。