スピッツァーが見た、惑星どうしの衝突現場
【2009年8月18日 Spitzer Newsroom】
NASAの赤外線天文衛星スピッツァーが、他の恒星のまわりで惑星どうしが衝突したことを示す証拠をとらえた。衝突は、水星と月ほどの大きさの天体との間で数千年前に起きたと考えられており、2つの天体は少なくとも秒速10kmという相対速度でぶつかったと計算されている。
赤外線天文衛星スピッツァーが、くじゃく座の方向約100光年の距離にある恒星HD 172555のまわりで、水星と月ほどの大きさの天体が衝突したことを示す証拠をとらえた。
スピッツァーが衝突の証拠として検出したのは、岩石が蒸発したことを示す一酸化ケイ素のガス、黒曜石、および隕石の衝突で形成される岩石の一種「テクタイト」にそれぞれ特有の赤外線である。また、衝突による衝撃波で飛び散った岩石の破片と思われるものも検出した。
さらに、スピッツァーによる観測で、2つの天体が少なくとも秒速10kmという相対速度で衝突したことが明らかになっている。衝突の瞬間、ひじょうにまぶしい閃光が放たれ、小さい方の天体は破壊されて大量の岩石が蒸発し、宇宙空間に向かって高温の溶岩が噴出したと考えられる。このような衝突は、地球のような岩石惑星が成長過程で遭遇するプロセスの1つと考えられている。
衝突が起きたのは少なくとも数千年前と考えられており、天文学的にはそう昔のことでない。このような衝突において大きい方の惑星は、外側の層が引きはがされる。一方、小さい方の天体は大きい方に吸収されてしまう。
太陽系の形成初期、水星も同様の衝突によって地殻が失われ、核のみが残されたと考えられている。また、太陽が形成されて約3000万年から1億年後に火星サイズの天体と若い地球との間でおきた高速の衝突で、月が形成されたと考えられてている。衝突で融けたり蒸発したりした岩石、こなごなになった破片などが地球のまわりに環を作り、長い時間を経て、破片から月が形成されたと推測されている。なお、今回観測で明らかになった衝突で、月のような天体が形成されるかどうかはわかっていない。
米・ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所のCarey M. Lisse氏は、「岩石を溶かし蒸発させてしまうということは、衝突は驚くほどの大きなスケールで高速だったはずです。これは、すぐに終わってしまうひじょうにめずらしい現象であり、地球と地球の月の形成を知る上でひじょうに重要です」と話している。