反復新星さそり座Uが11年ぶりに爆発

【2010年2月1日 アストロアーツ】

何度も爆発する新星として知られるさそり座Uが11年ぶりに増光した。8等台の観測報告もあるが、急速に暗くなると予想されるため、ここ1週間がチャンスとみられている。ぜひ、明け方にさそり座の頭を観測してみよう。


文:京都大学花山天文台 前原裕之さん

(さそり座U(U Sco)の増光をとらえた画像)

さそり座U(U Sco)の増光をとらえた画像。クリックで拡大(撮影:前原裕之氏(京都大学花山天文台))

(さそり座Uの爆発後の光度曲線)

さそり座Uの爆発後の光度曲線(VSOLJ, AAVSO, VSNETに報告された観測結果から作成)。クリックで拡大(提供:高橋進氏(ダイニックアストロパーク天究館))

空にそれまで見えなかった星が突如として輝き出す現象を見た昔の人は、新しい星が生まれたのだと考え、このような天体を「新星」と名付けました。しかしその後、新星が出現した場所にはもともと暗い星があることが明らかになり、新星とは星の明るさが短時間のうちに最大で1000万倍程度も明るくなる現象であることが分かりました。

現在では新星は、白色矮星と低温度の普通の星の近接連星で、白色矮星の表面に相手の星から降り積もったガスが爆発的な核燃焼を起こしてひじょうに明るくなる現象と考えられています。新星は星の一生の末期の大爆発である超新星とは異なります。新星爆発の後も近接連星系は健在なため、一度爆発が起きても相手の星からガスの流入が続き、爆発を起こすのにじゅうぶんなガスが積もれば再び新星爆発を起こすと考えられています。しかし、理論計算によれば、典型的な新星の場合は一度爆発してから再び爆発するまでには数万年オーダーの時間がかかるとされ、一人の人間が一生の間に同じ星が複数回の新星爆発を起こすのを見ることはないと言えます。

しかし、新星の中にはごく少数ですが、新星爆発を十〜数十年という短時間で繰り返す天体があり、これらを「反復新星(※1)」と呼びます。今回11年ぶりに新星爆発を起こしたことが発見されたさそり座Uも反復新星の一つです。

この星の新星爆発を最初に発見したのは、イギリスの天文学者N. ポグソン(1829-1891)で、1863年5月20日のことです。発見時に9.1等だったこの星は急速に暗くなり、1週間後には12等、6月10日には13.3等まで暗くなり以後見えなくなりました。その後の爆発は1906, 1917, 1936, 1945, 1969, 1979, 1987, 1999年に起きており、およそ10年おきに新星爆発を繰り返していることが分かります。

この再爆発間隔の10年という数字は、理論的に新星爆発を繰り返すことができる最短に近く、さそり座Uの白色矮星は、白色矮星の上限質量(チャンドラセカール限界質量と呼ばれる太陽質量の約1.4倍)に極めて近いと考えられています。

東京大学の蜂巣泉さんと慶應大学の加藤万里子さんらの研究によると、1999年に起きたこの星の新星爆発の光度曲線の理論計算から求めたさそり座Uの白色矮星の質量は1.37太陽質量であり、反復新星では新星爆発の前に積もったガスがすべて爆発で吹き飛ばされない(一部残る)ため、新星爆発を起こすたびに白色矮星が徐々に重くなることが示唆されています。これは、さそり座Uの白色矮星の質量が上限質量に近いだけでなく、今なお増えつつあり、ここまま質量が増え続ければ、白色矮星は自身の重力を支えることができず、将来Ia型超新星爆発を起こす可能性のあることを意味しています。

前回1999年の増光から9年が経過した2008年から、この星の再爆発を観測するためのキャンペーンを、ルイジアナ州立大学のシェーファーさんがAAVSO(アメリカ変光星観測者協会)を通じて行っていました。多くの観測者の精力的に観測にもかかわらず、残念ながら2008、2009年の観測シーズンには増光はとらえられませんでした。この天体は黄道に近いため、毎年11月ごろには太陽の近くにあるため観測できなくなります。しかし、太陽が離れた12月下旬には明け方の低空で観測可能になることから、熱心な観測者は昨年末から爆発の監視を行っていました。

今回見事にさそり座Uの爆発を発見したのは、アメリカ フロリダ州のバーバラ・ハリスさんとショーン・ドボラクさんで、ハリスさんは1月28日10時31分(世界時)、ドボラクさんは11時23分(世界時)にそれぞれ撮影したCCD画像から、普段19等ほどのこの天体が8等になっているのを発見しました。

ドボラクさんはこの星が太陽に近く観測できない間もSOHO衛星に搭載されたLASCO C3コロナグラフの公開画像でのチェックも行っていたほか、発見に恵まれたお二人以外にも多数の観測者が明け方の空でこの星の監視を連日行っており、今回の発見は幸運だけでなく多くの努力の結果であると言えます。発見情報は直ちにインターネットを通じて世界中に発信され、追跡観測が始まりました。

日本でも発見から約8時間後、さそり座が見えるようになった28日18時47分(日本時間29日午前3時47分)に最初の観測が報告されました。別の反復新星であるへびつかい座RSが2006年に爆発したときの発見者の一人だった群馬県の金井清高さんは、さそり座Uの増光に独立に気がついて観測された結果を報告されています。また、CBET 2152で報告されている広島大学東広島天文台の1.5mかなた望遠鏡による観測の他、岡山理科大や新星などのスペクトル観測を熱心に行っているアマチュアの藤井貢さんによって、この星のスペクトル観測も行われました。爆発後のこれほど早い段階でスペクトルが撮られたことは過去にありません。

日本で観測できるようになった時点で、この天体は8.5等と発見時よりもやや暗くなっていました。また、翌日の観測では1等以上暗く9等台後半になったことが観測されています。過去の爆発時にもこの天体は急速に暗くなることが観測されており、間もなく小望遠鏡で眼視的に見ることは困難になるため、ここ1週間が観測のチャンスと言えます。

今回の再爆発発見の情報によって、可視光だけではなくRXTE衛星やインテグラル衛星などX線やガンマ線の観測などを始めとして様々な波長での観測も行われています。今後の詳細な観測によって、さそり座Uの正体がさらに詳しく明らかになるとともに、Ia型超新星の起源についても様々な知見が得られるものと期待されます。

※1:"recurrent nova"の日本語訳。「回帰新星」、「再発新星」などと呼ばれることもある。

※さそり座Uの位置は、下記「関連リンク」先をご覧ください。